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第二十二章 変死 一瞬の出来事で動転して、冷静なボブも状況が掴めなかったが、ジョンが吐いた泡の白さから青酸カリであることをようやく察知した。 「キム!水を持って来るんだ!」 叫ぶボブの声で、自分を取り戻したキムは、朦朧としながらキッチンに行って水差しを持ってきた。 ボブはジョンの口に思い切り水を流し込み、体をうつ伏せにさせて、背中をさすっては、口の中に指を突っ込んで水を吐かせた。 白い泡とともに、水を吐き出し切ったジョンが落ち着いた様子を確認して、ボブはキムに言った。 「僕がジョンを見ているから、医者を呼んで来るんだ!」 キムは、何も言わずに頷いて家を飛び出して行った。 カインと二人きりになったところで、ボブは静かに言った。 「カイン、お前がやったんだな?そうだろう。多分チェンをバットで殴り殺したのもお前だろう?僕を騙すことは出来ないよ」 下を向いていたカインが顔を上げた時、ボブは内心ぞっとしたが、表情には一切出さなかった。 「ボブおじさん。どうしてそんなことが言えるの?僕は何にもしてないよ」 言葉では、そう言っているが、心の中でせせら笑っているのがボブに見えたのだ。 「キムと僕が話している最中に、お前がジョンの口の中に何か入れたのを鏡で見ていたんだ!」 ボブは放言を吐いて、カインに泥を吐かせようと思ったのだ。 しかしカインは、顔色ひとつ変えずに笑いながら言い放った。 「そんな馬鹿なことを、どうして賢いおじさんが言うの?そこの壁側にある鏡にベッドが映るわけがないもの。おじさんは僕を憎いの?それでそんなことを言うんだね」 放言を言ったボブだけに、言葉に詰まってしまったのを見抜いたカインは、追い討ちをかけるように言った。 「おじさんは、僕のお父さんを憎んでいたんでしょう。お母さんから聞いたけど。だからおじさんがやったのでしょう?」 14才の子供が言うことではない。 『この子は、悪魔に取りつかれている!』 そう思ったボブは、自分の身にも危険が迫っていることを悟った。 「まあ、そう言うならそうして置こう。とにかく医者が来るまで僕はここにいるから、お前は出て行きなさい」 出て行けと言い放ったものの、14才の子供に恐怖感を持っていた自分を情けなく思うボブだったが、背に腹は変えられなかった。 部屋を出て行こうとするカインの小さな背中が、薄気味悪い笑いをしているように見えるボブだった。 医者を呼びに行っていたキムが、医者と共に帰って来たのは、その直後だった。 しかし医者が駆けつけた時には、ジョンはボブに抱きかかえられて息を引き取っていた。 キムは、ベッドの前で泣き崩れた。 医者は、ボブの思った通り、青酸カリが原因の死亡だと診断した。 「どうして?青酸カリのような毒物は家にありません。一体どうしてジョンの口に入ったのですか?」 真っ青な顔をしてキムは医者に叫ぶように言った。 医者はまったく訳が分からない様子で両手をあげてしまった。 警察を呼ぶべきか、それとも病死にして問題を大きくしないか、ボブは迷ったが、こういう時の彼の決断は早い。 「キムちょっと話がある。先生ちょっと待っていて下さい」 ボブはキムを奥のキッチンに連れて行き、事情を説明したら、驚いた顔をして、 「それじゃ、今日の事件も、チェンの殺人もカインがやったって言うの?」 キムからカインとアベルの話を聞いたボブは、昔のジョンと自分のことを思い出していた。 確かに、あの頃ジョンはおとなしい、いい子だった。一方ボブは乱暴ばかり働く不良少年だったが、今から考えてみるとジョンの方がずっと陰湿で凶暴さを秘めていた。 何かのきっかけがあると、その秘められた凶暴性が表面化して、手のつけられない残忍なことをしでかす。 「とにかく、君が母親なんだからしっかりしないと。警察を呼ぶかい? 警察を呼んだら、まず間違いなくカインが犯人だとしてあげられるよ。 どうする?先生に病死扱いにしてもらうかい?」 「だって本当に殺人だったら、警察を騙すことは医者も出来ないでしょう?」 キムは、何とか冷静になろうと必死に頑張っている様子だった。 「僕なら、先生に病死扱いしてもらうように頼むよ。だってカインはまだ14才だろう。まだ分別もつかない年令だからね」 ボブはその時、心の中でカインを引き取ってサクラメントの自分の下で育て、この魔性を持つ少年を助けようと決断していた。 キムはまったく正常さを無くしていた。 「キム、ここは僕に任せて。僕の言う通りにするんだよ」 諭すように、ボブはキムに催眠術をかけるように、静かに喋りだした。 その様子をドア越しにカインが覗いていた。 |