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第四十四章 ルシファーの正体 家に着いたら、人気がない。 仕方ないから、四人は玄関の前の、バルコニーの椅子に座って待つことにした。 30分もしない内にジョンが戻って来た。 様子がおかしい。 『サリナスの町にもルシファーの手下がまだいそうだ』 そう思ってボブはキムに合図をした。 ジョンはキムに気づいた途端に表情が変わった。 「キム!キムじゃないか。無事だったのか?」 「ええ、ジョンこそ大丈夫?わたし攫われて、サンフランシスコのユダヤ教会で生贄にされそうになったところを、ボブたちに救われたのよ。ジョンのこと心配だから、すぐに戻って来たの。ジョンが生きていると聞いてびっくりしたけど、嬉しかった」 と言ってキムはジョンの胸に飛び込んだ。 ジョンの表情がますます変わっていく。 『今が絶好のチャンスなんだが、どうしたらドクターから貰った注射をジョンに打つことが出来るだろう』 ボブが考え込んでいると、ベンジャミンが急に暴れだした。 「お客さん、ここまでのタクシー代払ってくだせえよ」 と言ってジョンに迫った。 ジョンは何が何だかわからない。 「キム。この人は誰だい?」 キムが正直に答えようとすると、ボブがキムを遮ってベンジャミンに言った。 「いくら払えと言っても無いものは無いんだ!」 そしてジョンの前に立ちはだかった。 「何だと!この野郎!」 ベンジャミンはボブに殴りかかった。 身をかわしたボブの後ろに立っていたジョンに、ベンジャミンの拳がうなりをあげて飛んでいった。 「バサッ」という音がしてジョンは倒れて気を失った。 「さあ今だ!ジョンが気づく前に注射を打つんだ」 ドクターからもらった注射をバルコニーの床の上で倒れているジョンにすかさず打った。 「さあ、ベッドに運ぼう!」 ジョンを抱えてみんなで家の中に入った。 「ベンジャミン、君は機転が利くねえ。驚いたよ」 ボブはベンジャミンの人の心を読み取る能力と、頭の回転の速さに感動した。 「いえ、ほんのちょっとしたことで。それより、まったく申し訳ねえことをしてしまって。ジョンさんは大丈夫ですかね」 そうこうしている内にベッドに担ぎこまれたジョンがうなされている様子で、何か喋りだした。 最初は、聞き取りにくかったが、ベンジャミンが耳をそばだててジョンが喋っていることを復唱した。 その内容を聞いたトミーはドアーまで引き下がって呆然とした。 「何だって!サンヘドリンだって!サンヘドリンてなんだい?」 ベンジャミンが「サンヘドリン」と言った言葉でトミーはドアーの前で震えた。 「遂に、リスボンから悪魔たちがやって来たんだ」 訳の分からないことを呟くトミーの前に行って、ボブは無理やりトミーを椅子に座らせた。 「ジョンさんは、同じことを言ってますよ。サンヘドリンという悪魔たちがリスボンからやって来た。と言ってますよ」 「トミー。サンヘドリンというのは何のことだい?」 「聖書を持って来てくれないか」 ボブはリビングルームに行って、暖炉の上に置いてある聖書を持って戻って来た。 「さあ、聖書だ。ジェイコブが毎日、僕たちに読んでくれた聖書だ」 「18ページを開いてくれ」 トミーは自分で聖書を開かずに、ボブに頼んだ。 聖書の18ページを開いたボブは、サンヘドリンという言葉を探したが、どこにもなかった。 「サンヘドリンなんて、どこにも書いてないよ」 ボブがいらいらして言うと、 「最高法院と書いてあるだろう。それがサンヘドリンのことを指す。イスラエルが70年にローマ帝国によって滅ぼされた時、ヨッパに地下組織として潜ったんだ」 「ヨッパって聞いたことのない町だなあ」 ボブが呟くと、横からベンジャミンが言った。 「ヨッパというのは、今のイスラエルの首都テルアビブのことでさあ。ヘブライ語でヨッパと言うんです」 さすがユダヤ人だけに良く知っている。 「何故、それが今ポルトガルのリスボンなんだ?」 トミーはまた話し始めた。 「サンヘドリンはヨッパにしばらく潜って、その後エジプトのアレキサンドリアに居て、そこから地中海を渡ってグラナダ経由でリスボンに落ち着いた。最高法院というのは、モーゼの教えであるトーラという律法があって、そのトーラを民衆に教える祭司の最高位にある70人の枢機卿の集まりを言う。 そして、そのトップに立つのが71人目の教皇だ。この71人で組織されていて、全世界のユダヤ教徒に指令を送っているのをサンヘドリンと呼ぶんだ。 全世界の経済の三分の二を牛耳っているユダヤ資本に対しても絶対的な権限を持っている、いわば影の支配者だ。そのサンヘドリンのトップがサンフランシスコに来ているようだ」 ボブは、トミーの話を聞いて、真っ先にドクター・カミューのことを思い出した。 すぐに受話器を取って、ドクターに電話をして、話の内容を説明したら、ドクターは黙って聞いていたが、「ボブ。そのサンヘドリンのトップがルシファーだよ。ルシファーの魂が憑依していると言った方がいいかも知れないね。いずれはわたしも、ルシファーと対面しなければならなくなると思う」 と静かな口調でボブに言った。 |