第九章 十七条憲法―8

「八に曰く
  群卿百僚、早く朝(ちょう)して晏(おそく)退(ひ)け。公事?(おろそか)にする靡
  (な)かれ。終日にても尽くしがたし。是を以って、遅く朝すれば、急なるに逮(お
  よ)ばず、早く退けば、必ず事尽くさず」

諸臣は朝早く出勤して、日暮れて退出するように心がけよ。官の仕事というものは、おろそかにできないもので、一日中かかっても、なかなか尽くせるものではない。
故に朝おそく出勤したのでは、満足に事務の処理のできようはずがなく、また早く退庁するようでは、必ず仕事がし尽くせず、職務怠慢となる。


これまで、十七条憲法を説明してきましたが、これは憲法というよりも道徳、倫理観といったものでありましょう。
世界のいろいろな宗教を考えてみるに、釈迦の教え以外のものは、概して宗教観というよりは、処世術というか、その国々の風土、気候といった自然に合わした、生きる姿勢を教えたものが、殆どであります。
従って、何千年単位では地球規模の気候変化は有り得ない。
やはり最低、何万年、何十万年といった時間単位が要る。
そうすると、何千年前の教えも現代に通ずるわけであります。
そういった観点から考えてみますと、いくら科学が発達しても自然、宇宙レベルだと人間の進歩なんてものはたかがしれているわけであります。
ここでも太子が言っておられることは簡単なことであります。
要は、一日一所懸命働けと言っているわけです。
ただ、わたしの考えを言わしていただきますと、朝早くは、大事なことでありますが、夜も遅くまで、というのはもうひとつかと思います。
もちろん、太子の時代との文明の進化の違いがあろうかと思いますが、人間が有効に働く限界というものがあります。その効果というものと、やる気の問題とは決して比例しない。精神論としては非常に分かるのですが、ここに約千四百年のギャップがあるように思います。
自然科学が発達したお陰で、現代は物質的豊かさがある分、精神的満足感に貪欲になっている。つまり精神的満足に飢えているのが現代であります。
太子の時代は、やはりまだ物質的豊かさが現代のようではなかった。その分、精神的豊かさを追求する余裕がまだなかったと思います。
そこのところのギャップがここに出ているように思えます。
太子の時代は、とにかく一所懸命働くしかなかった。
今の時代は、物質的にはそれほど一所懸命働かなくても豊かさはある。
そうすると、時間の使い方にも、精神的な面が現代では反映してくる。その精神的な面を悪用する人間がどんどん出て来ておるのが、現代の風潮であります。
分かりやすく言えば、他人に対する評価が気になる、そのため実務上は何ら成果がないのに、むやみやたらに時間だけを無駄使いする傾向が強くなってきている。
非常に複雑な精神状態なのが現代人であります。その中でバックボーンになるようなしっかりとした信念を持つことが大事になってきます。
それだけ、生きることが難しい時勢になってきていると言わざるを得ません。