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表参道の教会 チイチイパッパ あの人は言った わたしの夢はチイチイパッパ わたしは言った 僕の夢はお手てつないで あの人は言った それは先生と生徒 わたしは先生 あなたは生徒 わたしはそれに憧れた あの人は言った あなたが先生 わたしは生徒 あの人はそれに憧れた そして手をつないで歩いた チイチイパッパと言って歩いた それが表参道での最後の思い出 渋谷から、線路沿いに原宿に向かって、二人は歩いていた。 ちょうどNHK放送局を通り過ぎた辺りで、裕子が言った。 「あなたが、わたしより年上だったら良かったのに、と最近思うの」 健吾は、まだ二十才の大学二年生で、本当の恋愛経験はなかった。 高校時代の親友の恋人が、彼を裏切ったことがあった。それを懲らしめる為に、彼女を呼びだし、「好きだ」と嘘をついて、一年生の夏休み中、彼女を弄んだあげく、ポイと捨てたことがある。 また、一年下のまだ高校三年生の女学生と一回目のデートでキスをして泣かしたこともある。 しかし、所詮みんな遊びだった。 相手は真剣だったが、彼はまったく気にかけていなかった。 若い者は残酷なことを平気でする点においては彼も同類だ。 結局、五年間片思いした相手しかいないのだが、その相手が意のままにならない。 その反動で他の女性を弄ぶ。 今から考えれば悪循環であっただけで、片思いの彼女に対する誠意が足らなかったことは確かだった。自分の想いをぶつけるだけで、相手の気持ちなど考えたこともない。 そして他の女性を弄んで、うさを晴らすのだから、本当の想いが彼女に通ずるはずがない。 結局片思いは、所詮それ以上のものにならないのが、片思いの宿命であるのかも知れない。 しかし、石原裕子だけは弄ぶ対象には出来なかった。 だから、映画館の中で接吻をしようと思ったら出来たはずなのに、出来なかったのだ。 裕子は昭和女子大学の四年生になっていた。 そして就職を控えていたから、健吾にそのようなことを言ったのだ。 原宿の表参道まで来た二人は、青山通りまで並木があるだけの真っ暗な中を当てもなく歩いていたら、教会の門が開いていた。 何を思ったか、教会の中に入らず、外の庭園のところで、健吾は立って話し始めた。 「僕には、中学生の時から好きな片思いの女の子が大阪にいるんです。東京に出て来る日に勇気を奮って告白をしたら、何か旨く行ったように思ったんですが、その後は、消化不良のような状態が今も続いているんです。 だから、どうしても他の女性を本気で好きになれないんです」 暗い教会の庭でも、月の明かりだけで裕子の表情が変わったのが、彼には分かった。 「その女の子、健吾君のこと解っていないんじゃないかしら?わたしにはそう思えて仕方ないわ」 平静を装って喋る裕子の気持ちを察することが出来るぐらい大人になっていた健吾だった。 「だけど、手紙を他人に見せたぐらいで、気持ちが急に変わるものですか?最初から、僕に余り興味がなかったとしか思えないのです。だから、もうふられたも同然ですが、五年間の片思いが、彼女を僕の天使にしてしまったようで、もう金縛りにあった状態です」 「健吾君は、竹を割ったような性格の清々しい青年で、今どき珍しいのにね。一体その女の子は何を考えているのかしら。だけど、その女の子が羨ましいわ」 どちらからともなく、原宿の駅に向かおうとしたら、裕子が言った。 「駅まで、手をつなぎましょう」 健吾から手を出して、裕子の細い柔らかな手をしっかりと握った。 原宿から山の手線に乗っても二人は手をつないでいた。 渋谷駅に着く前に、「家まで送っていきます」と言った健吾だったが、以前の裕子なら喜んで送ってもらっていたが、今回は顔を横に振った。 電車を降りた健吾はプラットホームから電車の中の裕子を見つめた。 裕子もじっと彼を見つめていた。 「これで終わったのかなあ」 電車が通り過ぎたプラットホームでぼっと立っていた健吾は、ふと呟いた。 |