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第八章 対決 どす黒い溝鼠と、白い溝鼠が近頃、徒党を組み始めたらしい。 どす黒い溝鼠は暴力という力を使って、白い溝鼠は国家権力という力を使って人間の本質にある力の源泉を補完し始めた。 これが確立されたら、一般国民は、完全に奴隷化されてしまう。 インドシナ半島や、中米で麻薬シンジケートの支配者たちが、金力で軍隊を持っているのは、暴力が究極の権力であることを熟知しているからだ。 暴力の最大組織は軍隊である。いくら巨大な暴力団組織といえども、軍隊が出動したらひとたまりもない。 戦争をする軍隊が最大の暴力団であり、軍隊は国家権力の下にあるから暴力団と言われないだけで、国家権力のコントロールから外れると、クーデターという暴力を行使するのである。 だから、軍隊なきクーデターはあり得ない。 共産主義国家に犯罪組織が存在しないのは、軍隊という最大暴力組織が国家権力の下に従っているからだ。その箍が外れた途端、マフィアが誕生する。ロシアがその典型である。 デビルは、その軍隊を相手に戦わなければならない可能性がある。白い溝鼠をお仕置きするにも、どす黒い溝鼠をお仕置きするにも、警察など何の役にも立たない。 警察の本質的機能は、諜報である。すなわち秘密警察がその本質である。 独裁国家の支配者は必ず秘密警察を持ち、そして親衛隊を持つ。それでないと独裁政権を維持出来ないからだ。日本では、近衛兵と昔は言って、天皇を護衛する兵隊のことを言った。近衛兵を持たない支配者は独裁者にはなれなかった。足利義満が、当時の今上天皇であった後円融の后を寝取ったりするほどの傍若無人な独裁者で通用したのは、近衛兵を持っていたからである。 平安時代以降、近衛兵を藤原一族が金力で支配していた延長線上で、近衛家が生まれたのだ。 結局、今でも、天皇家を横目に白い溝鼠が権力を握っているのが実態である。 イラクのフセイン大統領が戦争に負けても、依然独裁者でおれるのは、強力な親衛隊を維持しているからだ。 この国の実体は、非常に洗練された、組織的独裁共産主義国家である。 その国の常識をどんでん返しするには、彼らの持つ、警察権力と軍事力に対抗出来る力がないと無理だ。 デビルは独りでそれに対抗するつもりなのだ。だが考えてみれば警察権力と言っても、軍隊と言っても、しょせん人間がつくったものだ。 一方、デビルは宇宙創造の神がつくったものだ。 最初から勝負は歴然としている。 問題はその後、如何に彼らの心を改めさせることが出来るかであるが、改める気配がなければ抹殺するしかない。 抹殺するのは簡単だが、抹殺が目的ではない。しかし結局は抹殺することになるだろうとデビルは思った。 それほどに、他人の心を変えることは困難なことである。 そこで、まず、問題の警察署と真っ向から対峙してみることにした。 警察と言っても、一般の警察官は概ね善人だ。問題は警察官僚を頂点にしたエリートの連中であり、彼らに飼われた下っ端の小悪党たちだ。この前のふたりの警官がその類で、エリートからしたら、単なる消耗品だ。 『悪徳警察署長を懲らしめるか、それとも警察署そのものを敵にまわして大がかりな戦争をするか』 四郎が想いを巡らせたら、『罪のない者を巻き込んではならん』と胸で囁いた。 『しかし、この国の問題は、組織で悪行をする仕組みになっているところで、その仕組みを壊さない限り、個人を懲らしめても、次から次と、同じことをやる者が雨後の竹の子のように出てくる。罪のない者を巻き込むことは良くないが、それでは根本的解決は不可能です』と四郎は胸の中で問いかけた。 『もっと、よく考えよ。必ず最適の方法がある』と胸でまた囁く。 『分かりました』 内心呟いて、毎朝の散歩に出かけた。 最近、四郎は朝の4時54分になると、まるで目覚まし時計が鳴るように正確に目が覚める。 そして胸の囁きと会話をする習慣になっていた。 約1時間、会話は続く。そして6時になると寝床から出て、天神社へ行くのが日課となっていた。 天神社まで歩いている間も、囁きと会話することが多くなってきている。それは近々、大がかりなお仕置きをする計画を国常立から命じられているからで、その対象を考えると、いつも根本的な問題にぶつかるのだ。 人間社会の法律というものは、個人の罪の発生を防ぐことは出来ても、組織の罪に対してはまったく無力であることだ。その理由は、組織として罪を犯しても、組織を構成する人間全員が、その罪に関わっていないからだ。罪のない者を罰することが出来ないから結果的に組織そのものを罰することが出来ないのである。 会社組織で罪を犯しても、会社自身を逮捕したり、抹殺したり出来ない。 『疑わしき者は罰するべからず』が人間のつくった法律の精神だ。冤罪を防止するためだが、それなら組織犯罪、特に永年の慣習になって麻痺してしまっている罪行為は絶対に無くならない。 以前、大蔵省の脱税・汚職事件があったが、あんなことは各省で日常茶飯事のことで、事件として発生したのが、たまたま不運だったとしか思っていない。だから次から次と同じことが起こる。これは完全に麻痺した仕組みになっているからだ。交通違反と同じで、たまたま捕まったのが不運だと捕まる側も、捕まえる側も思っている。組織犯罪となると、その意識すら希薄になってしまって、懺悔・反省する機能がないから、同じような事件が絶えない。 別個の肉体を持つ個人になると、この機能はある。 ところが、組織となると、この機能は働かなくなる。結果、その組織の中にいる個人の意識からも、反省機能が無くなってしまう。 戦争を引き起こす根本原因もここにある。罪意識を持たずにする行為は、罪にならないのが人間のつくった掟なのだ。 自然の掟は、そんな生ぬるいものではない。自然の掟に反する行為をしたら、その集まり全体を容赦なく罰する。中には罪なきものもいるかも知れないといった配慮は一切ない。逆に、個人でやった行為が、組織全体にとって不都合なことであっても、自然の掟を守った行為であれば、組織が破壊されるようなことがあっても、自然の掟は個人を守る。 『人間の決めた法律というものは、絶対的掟ではなく、最大公約数的な相対的決まりなのだ。これを自然の掟の下に従属させない限り、人間社会の根本問題は解決できない』 四郎は確信した。 胸の囁きとは、裏腹に、ますます『少々の罪なき者の犠牲もやむなし』という想いが募るばかりだった。 『以前、地下鉄サリン事件というのがあった。確かに、罪のない無差別殺人だったが、何となくその首謀者の気持ちも分かるような気がしてきた。彼にとっては無意識な人間集団自体が、罪ある者に映ったのだろう。結局、戦争がその最たるものだ。 無意識な人間が存在すること自体が、自然の掟に反しているのだ。動物は、自己の意識においては無意識であっても、自然の意識と同体になっているから、自然の掟に対しては人間より遥かに意識的であるのだ。人類の破滅も時間の問題かも知れない』と四郎は思った。 しかし、四郎は胸の囁きに従うことが最善であることを今まで、嫌というほど経験している。 『罪のない者を巻き込まずに、組織を壊滅させる方法なんて、果たしてあるのだろうか』と考えに考え抜いたが、いい方法が浮かんでこない。 そのとき、末(すえ)婆さんが相談にのってくれた。 「ダイコクさんの話じゃと、それは実に簡単なことじゃと言っておられたよ。要は罪のない者たちを味方にすればいいだけじゃと」 末(すえ)婆さんの話で、デビルは、あのふたりの警官が暴走族とグルになっており、警察署長までその仲間だという発言をした録音テープのことを思い出した。 しかも、その録音テープを署長に送りつけてある。 そこで、この前、催眠術をかけておいた暴走族のひとりにコンタクトしてみた。 デビルの恐ろしさを眼の当たりにして以来、外に出ることも怖くなり、家に閉じこもっていた若者の胸に、『デビル・・デビルが呼んでいる』と囁いた。 デビルに催眠をかけられている連中は、普段はまったく正常な意識で生活しているが、胸で『デビル』という囁きがおこると、自動的に催眠状態になる。 それまで、おどおどしていた彼の表情が途端に変化した。 『デビル・デビル・デビル・デビル。お呼びでしょうか』 返答の囁きを、すぐに送ってきた。 『グルの警察署長のところに行って、うまく仲間のリストを訊きだすんだ。そしてそれをテープに録音するんだ。署長のところには、あの時のテープを送りつけてあるから、情報が欲しくてぴりぴりしているはずだ。そこを上手くつくんだ。いいな』 デビルは、若者に囁きで指示を出した。 『分かりました。すぐに取り掛かります』 『よし、いい子だ。これから、お前はエンジェルジュニアー1という名前だ。わかったな。デビル』 デビルという音が4回続くとコンタクトの呼び鈴なら、1回の音が、コンタクトを切って、正常に戻すサインになっている。 若者は、このデビルからの指示で、今までの怯えがまるで消えてしまったように、元気になって家を飛び出した。 デビルのかける催眠効果は、ただ操る為の目的だけではなく、その人間の良心を目覚めさせる目的もある。だからデビルに催眠をかけられたら、自分のやってきた罪行為に対して嫌悪感を抱き始め、デビルの指示に従って行動する度に、罪意識を相殺する善意識が生まれてきて、正しい事をする喜びを知り始めるのだ。 自制心の強い人間は怒りのエネルギーを多く持っているのが条件である。 悪いことをするとき、最初は強烈な怒りのエネルギーが必要で、普通の人間は、それだけの怒りのエネルギーを持っていないので悪いことが出来ない。しかし一旦、悪事のサイクルに入ると、それほどのエネルギーを必要としなくなる。 これが罪を犯す人間の、怒りのエネルギーの循環メカニズムである。彼らの怒りのエネルギーを行使する潜在能力は、普通の人間よりも遥かに高いものがあるのだが、使い道が負の方向に行ってしまっているのだ。デビルがそれを正の方向へ修正してやることで、普通の人間よりも世の為になる人間に変貌する可能性を秘めている。 『平凡に生きることしか出来ない人間が、結局、一番罪深いのかも知れない。それは彼らの言う平凡というのは、非凡に対する平凡ではなく、ただ無意識に生きているだけのことなんだ。平凡と非凡は表裏一体のもので、彼ら無意識な人間には無縁のものだ。返って、暴走族のような若者の方が意識して生きている。暴力団の連中も意識して生きている。ただその意識の方向がネガティブなだけで方向修正さえしてやれば、世の為になる人間たちなのだ。しかし白い溝鼠どもは、無意識の中で悪事を働いている。無意識だから出来ると言った方がいいかもしれない。意識してやる度胸のない、ただ狡猾さだけでやっている最悪の人種なのだ』 デビルは、だんだん人間のメカニズムの実体が見えてきたと同時に、『もっと、良く考えよ。必ず最適の方法がある』という囁きの意味が分かってきたような気がした。 『真実は表には決して現れない。現れるものは真実ではない』 この言葉が、四郎のこれからの生きざまのバックボーンになっていくのだった。 翌日、『デビル・デビル・デビル・デビル。エンジェルジュニアー1です』デビルの胸にコンタクトしてきた。 『デビル・デビル・デビル・デビル。ミッションは上手くいったか?』と囁くと、『はい、完遂しました。テープはいかがいたしましょうか?』と返事してきた。 『よくやった。次のもっと重要なミッションの為に、エンジェルジュニアー1は、これからエンジェルジュニアー2、3、4、5の4人を発掘するのだ。それまで、テープは預けておく』 デビルが囁くと、『ありがとうございます。そこまで信頼して頂いて。次のミッションにとりかかります』 囁きでも、嬉しさの感情が伝わってくるのだった。 『期待しているよ、エンジェルジュニアー1。デビル』 デビルは囁いた。 このエンジェルジュニアー1がこれから大きな役割を果たすとは思ってもいなかったが、新しいエンジェルジュニアーの中に例の警察署の中の善良かつ使命感を持つ若者が入っているだろうことをデビルは容易に想像できた。 『積極的に悪事に加担していなくても、分かっていながらも知らぬ振りしている連中が大半いるはずだ。彼らも同罪だ。いや一番の罪人だ』と思うと、『その通りだ。罪のない者を巻き込んではならん。と言った意味が分かったであろう。良く考えよ、と言った意味が分かったであろう』という囁きに四郎は胸の中で頷いた。 それから、1週間が過ぎた。 『デビル・デビル・デビル・デビル。エンジェルジュニアー1です』とコンタクトしてきた。 かねてから、神戸の暴走族のリーダーである賢治が、デビルにあってもよいと言ってきたらしい。 『エンジェルジュニアーは見つかったか?』と訊くと、『神戸の賢治さんとお会いになる時に、紹介します』と返事してきた。 『よし、それじゃ、明日神戸で会おう。場所は指定しているのか?』 『いいえ。デビルさまの指示されたところに行くと言っています』 『灘区の、弓場通りに面している平蔵(へいぞう)鮨という店に、午後1時にしよう』 『分かりました。その段取りで進めます』 新しい部隊が、また明日出来る。対決の準備が着々と進んでいることに、デビルは満足していた。 その夜、デビルは例の警察署長の家に電話をした。公衆電話で、一旦アメリカのオペレーターに電話を掛け、そこからアメリカの電話カードを使って、日本への国際電話をした。これではどこから電話をしたか、まったく検知出来ない。 「もしもし」と男の声がした。 『こいつだな』 デビルは思った。 「デビルや。テープは聞いたか?」と訊くと、録音テープをとっているらしい。 そんなことはデビルには通用しない。何種類もの声紋を発する能力を修得していて、他の人間の声紋に合わせて喋ることが出来るのだ。 大阪湾に沈んだ、ふたりの警官の録音テープをとっていたから、その内のひとりの警官の声紋で喋った。 「世の中のワルを取り締まる役を仰せ仕る身やのに、その悪人と手を組むなんて、もっての他や。俺はそれが許せんのや。お前のやっとることを、もうこれ以上、見過ごすわけにはいかんのや」と大阪湾に沈んでいる警官の口調を少し入れながら喋った。 「ええか。お前の署は、近々、地獄絵のようになるで。憶えておくんやな」と言って切った。 これは、国家権力への挑戦であった。 『何が国家権力だ!』とデビルは思った。 結局、国家権力とは、一部特権階級の連中の利を守るための機関で、国民はそのために搾取されているだけだ。国民の不満が爆発しないよう、監視しているのが警察であって、特権階級の飼い犬であるのが、その実体だ。 過去に、何度も宗教団体が弾圧に遭った。今度のサリン事件も、罪なき人の無差別殺人事件ではあるが、その宗教団体に対するその後の破壊活動防止法を拡大した団体規制法による観察処分は、明らかに弾圧である。 警察権力の本質は、しょせんスパイ活動の犬で、一般大衆の味方ではないことを、国民は気づいていないのだ。 悪から自分たちを守ってくれているのだと錯覚している。また、錯覚して警官になっている良心のある警官も中にはいる。だがエリート警察官僚は、まさに犬だ。 警察官僚を退任した際、暴力団の親分のところへ挨拶に行くのが、警察官僚である。 その後、この国の政治を牽引した政治家が蛆虫のようにいる。 『この実体を、一般大衆に知らしめる為に、生贄がいる』 デビルは、その生贄に、例の警察を選んだのだ。 しかし、その前にやるべきことがある。道理を通すことだ。ただのサリン事件ではいけない。 その為に、エンジェルジュニアー部隊が絶対必要条件だった。 毒を以って毒を制するのである。暴走族が警察をやっつけるのだ。 翌日、デビルは午後1時の約束だったが2時間前に平蔵鮨の店に着いた。裏に車を停め、裏口から店に入った。この店は、エンジェル3の実家で、この近くにある、タクシー会社に勤めていたが、エンジェル部隊になった時、タクシーの運転手をやりながら、親がやっていた鮨屋も手伝い始めた。デビルとの繋ぎをするのに便利だし、今回のように密会をする際の場所提供をするためだった。 昔で言う盗人宿のようなものだ。 午後1時前にエンジェルジュニアー1が、賢治と他のエンジェルジュニアー候補を連れてやって来た。 それまでに、デビルは平蔵鮨のまわりを完全にチェックしていた。 少しでも、怪しい気配を感じたら、即、キャンセルする。すべての危険性を徹底して排除するのが、生き延びる術であり、一番危険なのは、油断する心である。 平蔵鮨の店の奥座敷にデビルと賢治は対峙した。 『なかなか鋭い目つきだ』とデビルは思った。 「年はいくつになるんや」と訊くと、「何才になったか、もう10年ぐらい前に忘れてしまったわ」とぶっきらぼうに返事する。 デビルは、意識的に睨みつけたが、平然としている。 「ロシアンルーレットゲームというのを知ってるか?」とデビルも相手に合わせてぶっきらぼうに言った。 「ピストル持ってへんで。あんた持ってんのんか?」と訊いてくる。 「ああ、マグナムを持っている。これでやろか?」 デビルはマグナム銃を座敷机の上に置いた。 「ロシアンルーレットゲームは自分のこめかみに向かって引きがねを引くが、これからのゲームは相手の口の中に銃口を入れて、引きがねを引くゲームだ」 「よっしゃ、やろう」と言う。 「これは、なかなかの度胸だ」 デビルは、高野山の修行の時、国常立から、S&WマグナムやレミントンM700ライフルの練習も猛烈にさせられて、その扱いはまさにプロ中のプロの腕前になっていた。特にマグナム銃は非常に重いレボルバーだし、M700レミントンのライフルは500メートル先の象をも一発で仕留めるスナイパーライフルだ。それを正確に撃つには、強烈な腕力、指の力、そして視力が要求される。デビルは視力を5.0以上にする為に、毎日1時間、双眼鏡で1キロメートル先の動物を見つけては、それを裸眼で追いかけ、見逃すと、また双眼鏡で見つけては、裸眼で確認できるまで追いかけるというトレーニングをすることで、今では数キロ先の物の小さな動きをも確認できる視力を持っていた。またマグナム銃を手にするだけで、その微妙な重みの変化で、銃弾が何発、弾倉のどの位置に装填されているかも正確に感知出来る能力も持っていた。 ロシアンルーレットゲームは一発の銃弾が弾倉のどのシリンダーに装填されているか分からない中で、自分のこめかみに銃口を向け引金を引く、命を張った度胸比べだ。 デビルが、相手の口の中に銃口を入れ、引金を引くゲームにしたのは、相手の命を救ってやるのが最初からの狙いであった。 マグナムを出したデビルが、銃弾を一発だけ弾倉に残して相手に渡した。弾倉を回転させた時、何発目に弾が装填されているかデビルには分かっていた。マグナムは5連発レボルバーだ。 どこに装填するか、弾倉の回転の調整で何番目に弾をおくか自在にデビルは出来た。 そこで、デビルの観自在力が発揮される。 弾倉を回転する前に、賢治の心理状態を掴んでいた。さすが度胸と知力を兼ね具えている若者だった。多分、先に自分に引金を引かせるだろうと読んでいた。しかもデビルのモンスターぶりはすでに聞いている。弾倉の何番目に弾を置くか自由に出来る技術も持っているだろうとも察知している。当然その逆の手に出ようとしていることが読みとれた。そこでどちらが先に引金を引くか決める前に、デビルは弾倉を回し、最後の5発目に置いた。 「あんたの方から、先に引金を引きいな」 デビルは言ってマグナムを手渡そうとしたら、 「いや、あんたの方から引いてんか」 予想どおり賢治は言った。 「一発目を俺が引くのは、そんだけ危険の確率があんたの方に高うなる。このゲームをやろう言うたのは、俺の方やからフェアーやない。あんたが俺の口の中でまず、引金を引きいや。それが筋というもんやで」とデビルは言った。 それを受けるような奴なら、度胸のない証拠だと見抜いていたデビルだ。 「いや、あんたの方が先に引いてんか。そんな根性無しと、俺は思われとうないんや」 予想通り賢治は言った。 「そんなら、そうするわ」と言ってデビルは賢治の口の中に銃口を突っ込んだ。 まわりの連中はシーンとして固唾を飲んで見守っていた。 デビルは、いとも簡単に引金を引いた。 「カチッ」と言う音がした。 さすが、賢治も内心ほっとしているのが読みとれた。 2発目、3発目、4発目も「カチッ」と音がしただけだった。 マグナムが5連発の銃だとみんな知っている。次の5発目はデビルが賢治の口の中で、引金を引く番だ。 デビルは、無表情で、賢治の口の中に銃口を突っ込み、そして引金に指を据えた。 賢治の額から汗がしたたり落ちた。 引金を引こうとした瞬間、銃口を賢治の口から抜き、部屋の床の間に飾ってあった掛軸の達磨の絵の口元を撃ち抜いた。 「あんたを、死なすのはもったいないわ」 デビルは笑って言った。 「この兄さんには負けたわ。俺もあんたのエンジェルジュニアーにならせてもらうわ」 賢治も言って笑った。 平蔵鮨は、この辺りでは有名な、小粒の握り鮨でネタがバラエティーに富んだものを食べさせてくれる最高の店だ。 「この鮨、ほんまにうまいわ」とみんな打解け合ってぱくついている姿は、やはりまだ少年たちだった。 『こういう連中に夢を持たせてやるのが、デビルの使命だ』 四郎は思った。 翌週の土曜日、計画通り、賢治のグループ約20人が例のコンビニの前に夜の12時に集結し、そして暴走を開始した。 警察のパトカーが10台、陰に潜んで、デビルが現れるのを待ちうけている。 署長じきじきパトカーの1台に乗っていた。暴走を始めて10分ほど経ったとき、ジープに乗ったデビルが暴走するバイクの中に突っ込んでいった。 それを察知した、署長が全パトカーに出動を命じた。 「ジープごと跳ね飛ばせ!」 10台のパトカーに乗っている連中は、みんなグルの悪(ワル)たちだから、最初からデビルを殺すつもりでいる。 予ねてからの打ち合わせで、賢治たちはただ暴走するだけでいいことになっていた。 10台のパトカーがサイレンも鳴らさずに、デビルのジープめがけて走ってきた。 「みんな、散るんや!」 デビルは賢治たちに叫んだ。 20台のバイクがさっと、側道に出たのを確認して、デビルはレミントンを片手に持ち、パトカーの運転手を次から次と狙い撃ちしていった。 運転手を撃たれたパトカーはお互い衝突した。そこへデビルから撃ち放たれた銃弾がタンクに当たり、車は爆音と共に、空中に舞上がった。 悪(ワル)は、悪知恵が働く。署長の車は一番後ろについて、この様子を見ていた。 驚愕した表情で、「引き上げ!」とわめく署長のパトカーの前にデビルのジープが立ち塞がった。そしてデビルがゆっくりとパトカーに近づいて、ドアーを開けて、「みんな、降りいや」 静かに言ったデビルの手のレミントンの銃口が彼らに向けられていた。 後部座席にいた署長は震えながら、外に出てきた。 前の座席にいた、ふたりの警官も真っ青な顔をして、署長を守るように立った。 「あんたら、ええとこあるな。こんなワルのおっさんでもまだ守ったろうと思ってんか」 デビルが3人を引っ張って側道の脇にある小さな公園に行ったとき、賢治たちも戻ってきた。 公園の広場の真中に立たされた3人は、もう警官ではなく、怯えきった野良犬のようだった。 賢治の顔を見た署長は、 「お前ら、裏切ったな!」とわめいたが、賢治は「ふん!」と笑うだけだった。 「署長はん、最後のチャンスやるわ」とデビルが言った。 「何をするんや?」と震えた声で言う署長に、「素手で、一騎打ちや。あんたが勝ったら、みんなに手を出させへん」 デビルがニタッと笑った瞬間、賢治たちも戦慄で震えた。 獣の闘いだ。 署長は為すすべもなく、デビルに噛み殺された。その死体は、ライオンたちが食い殺した獲物がシマウマなのか鹿なのか分からないぐらい、ずたずたにされ、はらわたが飛び散り、人間の姿形は完全に消えていた。 わずか30分ほどの出来事だった。 ふたりの警官に、血だらけになった口から白い歯を見せてニタッと笑いながら、デビルは、「次は、どっちや?」と聞くと、ふたりは気絶して倒れてしまった。 「後は、決めた通り、うまいことしといてや」 賢治に言って、デビルはジープに乗って消えて行った。 「ほんまに、あの方は、鬼神やなあ!」と言う賢治に頷きながらも、みんな呆然として、しばらく立ちすくんでいた。 ジープに乗ったデビルは、普段の四郎に戻っていた。 そして、『ついに、戦争は始まった』 内心呟くのだった。 |