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第五章 掟の実践−3 デビルのお仕置きの見事さと、悪に対する徹底した非情さに賢治は舌を巻いた。 新聞一面の事件として出て以来、賢治に対する監視はまったく無くなった。 『これが、汚い世の中の実態だ。結局、正義とは力だ。悪も力だ。正義の力が悪の力を上回れば世の中は綺麗になるが、残念ながら、この世では悪の力が、正義の力を上回っている。だから、女も悪の力に魅かれる。現代の日本の若い女のほとんどは悪の力に汚された顔をしている。いくら外見を綺麗にごまかせても、心の汚さが顔に表れている。昔のアイドルだった永吉百合子の顔と最近のアイドルの顔を比較したら、まさに天使と魔女の違いだ。今度のお仕置きの対象は、この魔女たちと、この魔女たちをコントロールしている、薄汚れた男たちだ。その横綱が東西にいる。この横綱二人と、それに侍るそれぞれ10人の女たちのお仕置きだ』 デビルは賢治のことをヤマトと呼ぶことにした。 「東の横綱というのは、事故を起こして無様な醜態をさらしたのに、今でも調子にのっている、あの醜い顔のタレントですね」 ヤマトはすぐ察しがついた。 「いくら、言動で他人をごまかせても、己の心の状態は顔に表れる。馬鹿な大衆か、それとも下心があるマスコミの奴らは、顔を見抜く眼力がない。自分の目も曇っているからだ。あの男は、絶対に心が腐りきっている。そうでないと、いくら事故を起こしたとは言え、あんな顔にはならない。あの面相は100%心の醜さを表している。間違いない」デビルは断言した。 「西の横綱は、あの阿呆面のタレントでしょう」 「この男は、要は馬鹿なくせに傲慢なんだ。そんな奴をタレントにして人気が出るのが、大阪が没落した遠因だ。不真面目なんだ。大阪の町全体が不真面目なんだ。だから、こんな馬鹿が、大きな面をしているんだ。この後を追いかけているもうひとつ馬鹿な奴がいる。最近では、政治絡みの報道番組の司会者をやっているらしい。その番組は政治家相手に辛口の辛辣な質問を、切れ味の良さと勘違いしている。これなど、テレビ局と、無責任なキャスターが堕落し、迎合している証拠だ。こんなことを言いだしたらきりがない。まず、この東西のふたりと、その女どもを血祭りにあげるのだ。そして、二度と、こんな連中に大きな面をさせないようにすることだ」 ヤマトはこの連中のお仕置きの舞台装置をつくる役割だ。 『まだ、ヤマトといえども、血で手を染めさせることは出来ない』 デビルは思った。 一方で、デビルは各新聞社に鬼の掟十七条の六条から八条までを掲載するよう命令した。 第一条から第五条までが、人間も他の生物も地球上において、同じ生物のひとつであって、決して特別なものではないことを明確化しているのに対して、第六条から第八条は、人間は地球上における生物の中で一番進化した生物であることに感謝の気持ちを持ち、その責任を認識することを示唆している。 すなわち、 第六条 凡そ、人間だけが、すべて生あるものは死から免れないことを、教えられそれを知る福音を与えられたことに感謝すること 第七条 凡そ、人間といえども天の意思なく生を受けられるものでないことを知るならば、生を得た悦びに感謝し、その意義を生あるうちに知るべく努力すること 第八条 凡そ、人間として生命を維持する上での他の生物の殺生以外は、いかなる微細な生物といえども殺生は許されるべき行為でないことを肝に銘じ守ること 特に、この中でデビルが一番重視したのが、人間の死生観であった。 死ぬということを知っているのは人間だけである。だから生きているということも自覚していなければならない。これが死生観の核心である。 ほとんどの人間は死というものを意識しているが、生きていることを意識したことがない。 それとも皮相的に生きていることを意識するが故に、死というものを意識していない。いやそういう意識を敢えて持とうとしないのだ。 現実には、そんな二律背反的なことは有り得ないのである。 死生観というのは、死と生を表裏一体として捉えて初めて湧き出るものであって、死んだことのない人間が、生きている人間なのだから、生きていることを意識していない限り、死に対する明確な考えなど絶対に持てるはずがない。 それを、事故を起こして死と直面したときに、「まだ死にたくない、助けてくれ!」と医者に懇願するような稚拙な人間が、偉そうに死生観などと、宣うなど言語道断も甚だしい。 表舞台で平気で悪業をやる、こういった連中が、八百万の神々、特に、丑寅の金神こと国常立命にとって、最も許せないのである。 裏社会で悪事をする奴も許せないが、彼らは悪事をしていることに麻痺はしているが、決して無意識に悪事をやっていない。自分に危険な火の粉がかかってくるとなったら、恥も外聞も捨てて韋駄天の逃げ足の早さを示すのがその証拠だ。 彼らは、度胸があるのでも、ましてや高貴な勇気など爪の垢ほども持ち合わせていない病的なほど臆病な人種である。だから、弱い相手には冷酷なことを平気でやるが、強い相手や、自分が危険な状態になったときの逃げ足の速さは、あきれるばかりだ。それだけ、己のことを分かっているのだ。 ところが、表でやる連中は、チヤホヤされるものだから、己を見失っている。 デビルが一番嫌う類だ。それだけにお仕置きも熾烈である。 「要は、このふたりの男に男をやめさせ、取り巻きの女たちには女をやめさせるのが今回のお仕置きですね?」 ヤマトはデビルに言った。 デビルは例によってニタッとした。 それから3日後、テレビ番組の中でも最も低劣なワイドショーでこのふたりに関する猟奇事件が起こったことが報道された。一般のニュースで取り扱う価値なしとのデビルからの命令で新聞、テレビでは一切の報道を禁止されていたからだ。 その番組で、お仕置きする価値もない低劣なキャスターが、いかにも興味本位の井戸端会議の調子でこの事件を報道した。 東京の2ヶ所のマンションで同じ日の夜に、例のふたりの男と女たちが、性器を鈍器で潰され、男は睾丸除去、女たちは子宮除去の手術を、麻酔もされずに為された。そのまま放置すると死んでしまうので、デビルは、医者顔負けの外科技術で命をとり止め、生きる苦痛を与えたのだ。 連中は、ほとんど精神錯乱状態になって、今でも「デビルがまたやって来る!」と言って怯えているらしい。 「相変わらず、デビルのやることは鬼神そのものですね」 遼太郎がみんなに言った。 |