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第九章 どうしようもない世襲議員 国会では、憲法改正の問題が論議されていた。ところがどんな憲法に改正するのか、案がまったく出てこないため、国民の決済を仰ぐ決議まで行かない。 『とにかく、連中の試験をやってみよう』とデビルは決心した。 100人を超える世襲議員の中から、まだ比較的ましな部類だと思われる連中を10人選んで都内のホテルに、ふたりは呼びつけた。 呼びつけられた10人の世襲議員の怯えた様子を見て、デビルは半ば諦めていた。 デビルが黙ってすわっている横で、賢治が彼らに説明した。 「あんたたちが、今までお仕置きを受けずに済んだのも、今日のためだ。日本という国がどうしようもない状態にあることは、この前の東京を侵略された事件で分かったはずだ。この国の窮状を救うためには、どうしても憲法改正を早急にしなければならない。そのためにあんたたちを今日まで、ここにおられるデビルさまは生かしてこられたのだ。ところが、一向に新しい憲法の素案が出てこないので、デビルさまは決心された。今日呼んだあんたたちは、数多い阿呆な世襲議員の中でも、ましなほうだ。そこで、あんたたちの程度の程を試験して、今後もあんたたちを生かしておくかどうかを決めることになった。もしこの試験でデビルさまが不合格と判定されたら、今日、この場で腹を切ってもらうことになる。介錯はデビルさまじきじきにして下さる。それでは、これから試験問題を配るから、解答はデビルさまへ口頭でやって頂きたい」 賢治の説明を聞いた連中は顔面蒼白になった。 問題用紙を配られた彼らは内心ほっとした顔つきに変わった。彼らは口達者だし、質問の内容も、いつも国会で論議されているものだったから、彼らなりの口上をすでに持っていたからだ。 いかにも喋くりが得意そうな、まだ30前後の男が手をあげた。 「あんたの名前は?」と賢治が聞くと、「鈴木美一です」と答えた。 名前と顔つきで誰が親父かすぐ、ふたりは分かった。親父も口の達者な政治家だったが死んだその後をすぐ継いで、この若さで代議士になったのだ。 「もう、解答出来るのかい?」と賢治が笑いながら聞くと、 「はい。できます」と自信満々に答えた。そこへ同じ年かさの別の男も手をあげた。 「あんたの名前は?」 「佐藤五郎です」 この男の親父は、まだ現役でやっているが親子揃っての代議士で、愚かな大衆から絶大の人気がある。 「じゃあ、鈴木さんから始めてくれるかい」と賢治が言って合図をした。 「歴史観については、今、世界は約400年前に起きた、暗黒の中世から近代社会への移行と同じように、新しい社会への移行時にさしかかっています。近代社会の次には、どんな社会が現れるのか、それは依然闇の中で、確たるものは見えないが、高度情報化社会をベースにした、近代社会が科学によって発展したのに対して、知恵によって発展する社会のように、わたしは思います。そして近代社会がもたらした負の遺産であった地球環境汚染や生態系の異変がますます問題化してくると思います。地球に優しい人間にならなければなりません。宇宙開発は地球の環境汚染をこれ以上悪化させない上で重要な課題だと考えます。今まで地球上でつくっていたものを、宇宙でつくることによって地球環境汚染をくい止めることが出来るからです。そういった観点から、21世紀の社会システムは高度情報化社会で地球が狭くなった分、宇宙へと人間が羽ばたく世紀だと考えます。 またそういった21世紀の新しい社会システムにいち早く気づき、我が国の進むべき道を先取りして推進するのが政治家の存在価値だと思います。わたしもその為に、少しでもお国の為に役に立てることが出来たらと思い政治家になりました。 そして今では、それが政治家になったわたしの使命だと思っていますし、お役に立つ自信はありますし、それだけ努力という汗をかいているつもりです。そして国民のみなさんに喜んでいただける結果を出せたら、この上ない喜びであります」 十分な解答が出来たと思ったらしく、満足気な顔をしてデビルの反応を待っていた。 そのとき、デビルがニタッと笑った。 賢治は察しがついて、「残念ながら、不合格だ。今すぐ腹を切ってもらおうか」と言って、鈴木議員に小刀を差しだした。 「どうして不合格なのですか。理由(わけ)を聞かせて下さい」と口を震わせながら、精一杯反論した。 賢治は自分のつくった解答書を彼に渡して言った。 「これが、基本解答だ。あんたは自分では分かったようなことを言ったつもりだろうが、何にも分かってはいない。精神の汗のことについては触れなかったが、意味自体が分かっていなかったからだ。今の政治家の言っていることはほとんど口先だけの饒舌に過ぎない。政治家というのは命を張る職業だ。ミスは許されない。ミスをしたら国民に大きな犠牲を強いることになる。だから、そう安易に就くべき職業ではない。それを世襲で政治家になるようなことは論外だ。政治家という職業は相続するような個人の財産ではない。現代社会の最も忌むべき現象は、すべての世界で世襲というやり方をしている。世襲は、あくまで個人にかかわることで、社会に少しでも影響を与える地位や職業では、世襲は絶対に避けるべき要件である。いわんや、聖職と呼ばれる職業では。それを、あんたら政治家もそうだが、宗教家もそうだし、最近ではタレントまで世襲をやっている、いわゆる芸能人だ。芸の能力を持っているから芸能人なのに、親が芸能人だから子も芸能人になる。親が歌舞伎役者だから子も歌舞伎役者になる。そんなに政治家、宗教家、芸能人といった職業が要求する能力は、子が安易に引き継ぐこ とが出来る程度のものなのかい。こういった職業に就こうとするには、並々ならぬ努力をしないと就けるものではないし、また就くべきでない。それを親がそうだったから子もそれをする、また出来る社会システムになっているところが、最大の問題点である。だから、精神の汗という意味を分かっていないんだ。そうじゃないかい」と賢治は腹立たしく、言い放った。 「どんな人間でも、寿命を全うする際には、精神の汗を必ず掻くものだ。さあ、今から精神の汗を掻くんだ」 デビルが鈴木議員に、静かに言った。 「許して下さい。何でも言われたことはやりますから」と鈴木議員は土下座して許しを乞うた。 その瞬間、デビルが鈴木議員の後ろにまわって、賢治の差しだした小刀を手に握らせ、鈴木議員の腹に突き刺した。 「アアッア」といった叫び声が聞こえた瞬間、デビルはその手を左から右に思いきり動かした。 「ヒイッ!」と断末魔の悲鳴の中で、デビルはニタッと笑いながら言った。 「どうだい、精神の汗をかいた感想は、気持ちいいだろう?なに!まだ汗をかいていないって。それじゃ、もっと気持ちよくしてやろう」 今度は右の脇腹までいった手をそのまま上の方へ持ちあげて、 「この御仁は、介錯してもらいたくないらしい」と言って、デビルはその手を離して、自分の手を思いきり、切り裂かれた鈴木議員の腹の中に突っ込んで、腸(はらわた)を引っ張り出した。 そのとき、鈴木議員の頭がうなだれた。 デビルは、手に掴んだ肉片を佐藤議員の前に放り投げた。 「次はお前さんの番かい」とデビルが言うと、 「いや、わたしは結構です」と言ってぶるぶる震えだした。 「腹が据わってないね、みなさん。ほら、この腸(はらわた)。まだピクピク震えている」床の上にころがっているどす黒い腸(はらわた)を掴みながら、デビルは佐藤議員の顔に放り投げたら、佐藤議員は卒倒してしまった。 デビルは、そこで残りの議員たちに催眠をかけた。 『いいかい。デビルと4回囁きがあったら、返事するんだ・・・』 そして、連中を部屋から出した。 「これで、第一ラウンド終了だなあ」とデビルは賢治に呟いた。 |