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第五章 パクス・ロマーナの終焉 東京を主戦場とした第三次世界大戦は、10日で決着がついた。 アジア連合軍の圧勝だった。 最後にデビルが言った。 「お前たちの誇りであるアインシュタインが今から90年前に、この日本に来たときのメッセージを教えてやろう。 『世界の未来は進むだけ進み、其の間、幾度か争いは繰り返されて、最後の戦いに疲れる時がくる。其の時人類はまことの平和を求めて、世界的な盟主を崇めなければならない。この世界の盟主たるものは武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜き超えた最も古く、また、最も尊い家柄でなくてはならぬ。世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。われわれは神に感謝する。われわれに日本という尊い国を作って置いてくれたことを・・・』 お前たちはキリスト教徒でありながら、神の書と信じておる新約聖書のヨハネの黙示録の序文にある言葉を知らないであろう! 『イエスキリストの黙示は、すぐにも起こるはずのことを、神がその僕(しもべ)たちに示すためキリストにお与えになり、そしてキリストがその天使を送って僕(しもべ)ヨハネにお伝えになったものである。ヨハネは、神の言葉とイエスキリストの証し、すなわち、自分の見たすべてのことを証しとした。この預言の言葉を朗読する人と、これを聞いて、中に記されたことを守る人たちは幸いである。時が迫っているからである。 ヨハネからアジア州にある七つの教会へ。 今おられ、かつておられ、やがて来られる方から、また、玉座の前におられる七つの霊から、更に、証人、誠実な方、死者の中から最初に復活した方、地上の王たちの支配者、イエスキリストから恵みと平和があなたがたにあるように』 ここに何故、『アジア州にある七つの教会へ』と言っておるのか。 お前たちの教皇は分かっておったはずだ。だからアジアの国を支配下におこうと必死になったのであろう。だが、これからは聖書も、アインシュタインも言っておるように、世界の中心はアジアになることを肝に銘じておくことだ!」 2011年9月22日。 11世紀末から13世紀後半まで続いたキリスト教十字軍による回教徒への迫害から始まり、およそ4百年続いた欧米帝国主義による世界支配の幕は遂に、デビルによって下ろされた。 マイヤーが言った。 「さあ、新しい世界の建設を始めましょう。ニューヨーク、ロンドン、パリ、アムステルダム、そしてローマは、これから世界の僻地となり、京都、北京、上海、香港、ソウル、シンガポール、サイゴン、ジャカルタが世界の中心となるのです」 「東京は何故入らないのですか?」賢治が訊いた。 「東京が日本の首都になってから、日本も世界も不幸な事件の連続です。徳川幕府が江戸をつくった17世紀の初めから、呼応したようにヨーロッパ帝国主義が始まり、世界は混乱状態に入りました。やはり、あそこで織田信長がもう少し生き続けておれば、東京という都は永遠に生まれなかったでしょうね。やはり京都が都で権力の中心は大阪になっていたでしょう。その方が日本にとっても、世界にとっても幸せだったと思います。アインシュタインが何故、京都で、あのメッセージを発したか分かるような気がします」 マイヤーが答えた。そしてそれに加えてデビルが言った。 「この国は、古代から西が中心で東は僻地だった。東征や征夷大将軍の言葉があるが、西征なんて言葉はない。明治維新も結局、東征であったのだ。あそこで何故東京に遷都したのか、誰がそれを決めたのか、不思議で仕方ない。明治天皇が決めたとは思えない。その証拠に明治天皇の墓稜は京都の伏見にある」 「それが、デビル様、あなたのこれからの重要な課題となるでしょう」 マイヤーは意味ありげに笑って言った。 アインシュタインの京都でのメッセージにある『世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない』がいよいよ現実のものになろうとしていた。 アメリカ、イギリスを中心とした欧米白人による世界支配の時代はパクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナと呼ばれていた。 16世紀に、ポルトガルから始まった大航海時代が生んだヨーロッパ帝国植民地主義は20世紀末まで、およそ5百年間続いた。 暗黒の中世から、ルネッサンス、宗教改革、産業革命を生んだヨーロッパ諸国は、それまでの世界の僻地を、近代世界の中心地へと導いた。 彼らにとって、輝ける5百年であった。 しかし、その輝ける近代世界は、他の世界の犠牲の上に成り立っていたものであり、犠牲を強いられた世界にとっては中世以上の暗黒の近代であったとも言える。 紀元前9世紀に起こったギリシャのアテナイ都市国家が、紀元前5世紀にギリシャ文化を生み、その精神を引き継いだ一都市国家であったローマが紀元前27年に大ローマ帝国へと発展していった歴史が、彼ら欧米白人世界の誇りであった。 Romaic(ローマ語)が現代ギリシャ語(Modern Greek)と呼ばれているのも、東ローマ帝国がギリシャ語を使っていたからであり、ギリシャ文化から大きな影響を受けていたわけで、欧米白人世界の原点はギリシャ・ローマ文化にある。 今でこそ、聖書は新約・旧約を併記しているが、旧約聖書が古代ヘブライ語で書かれたものであるのに対し、新約聖書はギリシャ語で書かれた理由も、ローマ帝国がキリスト教を国教にしたからであり、聖書は新、旧であきらかに違ったものである。それを現代キリスト教のバイブルにしたところに、政治的意図が窺えるのである。 その政治的意図の原点がローマ帝国への回帰であり、パクス・ロマーナである。 世界を支配してきた欧米白人世界の理想はパクス・ロマーナの再建築で、パクス・ブリタニカにしても、パクス・アメリカーナにしても、結局はパクス・ロマーナの真似事でしかない。 パクス・ロマーナの象徴であったバチカンを、デビルによって破壊された欧米白人世界は、背骨をへし折られたのである。 まさにパクス・ロマーナへの回帰を木っ端微塵にされたのであり、それを一人でやり遂げたデビルの出現は、『キリスト教は、わたしの教えではない!』と叫ぶイエスの復活であった。 4世紀に始まった、キリスト教による世界支配の企みは、イエスの十字架刑直後から始まり、2千年間に及ぶ偽善の歴史は、どれだけ多くの人類の悲劇を生んできたか、計り知れない。 21世紀に入って、アメリカを中心にパクス・ロマーナを目指そうとした企みは、1991年の湾岸戦争、その集大成として2001年に起こった単なる一国のテロ事件を理由に、多国籍軍を編成したアメリカを中心とした欧米白人世界の暴挙に如実に顕れている。 そして、天は彼らの企みを粉砕するために、2001年4月1日に、アインシュタインの言った『世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない』を現実のものにするため、日本の国にデビルを出現させ、パクス・ロマーナ復活の妄想を、デビルによって粉砕させたのである。 |