Chapter 22 「神はすぐ傍に」を感じた体験

相対論や量子力学などと普段聞き慣れない話ばかりをしていては、息切れしてしまって、せっかく頑張って来られたのを水泡に帰すことになっては、悔やんでも悔やみきれない事態になるやもしれません。
そこで、このChapterでは、わたしの体験談を少し話をして、脳を小休止してリラックスして頂ければと思います。
わたしが、25才の時、大学時代の寮の先輩である方と、タイの観光ツアーに行った時のことです。
わたしの知り合いが、急にタイツアーに行けなくなって、わたしとその先輩が、無料で行かせて頂くことになって、会社を休んでのツアーでした。
従って、どんな方々の集まりであるのか、まったく知らないまま参加したのであります。
タイ航空でバンコックに向かっている飛行機の中で、ツアーの中の一人の客が酒に酔って、スチュアーデスのお尻を触り、再三の注意にも耳を貸さず、止めようとはしない事件が起きました。
とうとう、スチュアーデスも我慢の緒が切れて、機長に報告。
機長から、添乗員に、再度同じ行為をすれば、タイに入国させないと通達をされました。
わたしは、その事件のことを、バンコク市内に行くチャーターバスの中であとから知ったのです。
その酔った男は、バスの中でも一番前に陣取り、タイ女性のガイドにちょっかいを出し続け、ドル紙幣の塊で、その女性の顔を張るという恥さらしの行為をしたのです。
わたしと先輩は、他のツアー客がほとんど50才を過ぎた方たちであったので、バスの一番後ろに控えておったのです。
そうしますと、まわりでいい歳したおっさん達が、ぶつぶつ囁いておるわけです。
「せっかくの楽しい旅行も、あんなことされては台無しやわな!」
「そうや、そうや。えらい迷惑や」
と言っておるのです。
わたしは、その時思いました。
『そんなら、止めさせたらええやないか』
しかし、彼らは、陰で文句を言いながらも、泥酔した男を止める勇気が無かったのです。
『そんなら、俺が注意したろう』
と思って、前に行こうとすると、先輩が、「おい!やめとけ!どんな変なおっさんかも知れへんから」と、わたしを止めようとしました。
しかし、25才の若輩者のわたしでしたが、こう思いました。
『ここで知らん振りしたら、一生悔やむかも知れへん。しかし相手がやくざやったらえらいことになるかもしれへん。怖い!』
今になれば、どんな度胸のある人間でもこんな風に思うことを知っていますが、若かったわたしには、そんな経験がありません。
また武道や格闘術の経験もありませんから、喧嘩になっても勝つ自信もありません。
しかし、心の中で、『ここで知らん振りしたらあかん、一生悔やむ』と思ったわたしは、止める先輩を振りきって、その男のところに行き、こう言いました。
「おい、おっさん。ええ加減にせんかい!文句あるなら、後で話つけようや」
そのおっさんは、びっくりした様子で、それからはおとなしくなりました。
ホテルに着いた一行がロビーでチェックインするのを待っている間に、わたしは、そのおっさんのところに行きました。
「おっさん、さっきの話つけようや!」
わたしが言うと、「お前、どこの組のもんや!」とおっさんが凄みました。
一瞬、わたしは『やばい!このおっさんやっぱりやくざやった』とたじろぎました。
その時、『どっちが正しいんや!びびるな!』と胸で囁く声が聞こえるのです。
「どこの組?それがなんで関係あるんや!とにかくここでは迷惑かけるから、外へ出んかい!」
とわたしも凄みました。
そうしますと、そのおっさん、横にいたタイ人の男に、「お前、さっき金やったやろ。何とかせんかい!」とその男に怒鳴るのです。
「いえ、わたしは・・・・」とその男も、わたしに手を横に振って頭を下げる始末。
結局、その場はそれでお開きになった訳です。
『よかった!』わたしは内心そう思いました。
それからは、いたって真面目なツアーになって最後の夜がやって来ました。
日本料理屋で、みんなで宴会です。
そうしますと、そのおっさんが、わたしの席にやって来て、「あんた、若いのにええ度胸してるな!わし感心したわ」
「いえ度胸なんかありません。ただ言うべきことを言っただけです」
そうして二人は仲良くなりました。
そのおっさんは鉄工所の社長だったのです。
逆のケースで、胸の囁きを聞いた出来事がありました。
仕事の関係で、お客さんになる会社に、わたしより相当若い男がおりまして、わたしとの窓口になっておりました。この男、すぐに口で人を脅かす。しかもその脅かし方が虎の威を借りた狐−いや、やくざを虎に、この男を狐にたとえたら虎が怒るでしょうし、狐が気を悪くして、この夜は闇になります−、ハイエナの威を借りたスカンクのように、「自分の後ろにはやくざがいるんや」と言っては相手をびびらす。
ある日、わたしに対しても、同じように対応してきたのです。
しかし、わたしは静かに相手に対応しました。
『これはビジネスの相手。たしかに阿呆なことを言って脅す奴だがビジネスと割り切らなければ、わたしの下にいる者たちのおまんまが食えなくなる』
そう思ったわたしは、彼に対してしばらくは放っておきました。
そうするとますます頭に乗って来る。
そこで、ちょっとこの男の身辺を調べさせました。
言っておることと、まるで違うのです。
『さて、どうするか』と考えていますと、『捨てておけ。世間のチンピラはみんなこんな類だ。いずれ天罰を食らって地獄に落ちるであろう。捨てておけ』と胸で囁くのです。
ちょうど、その頃わたしの仕事に変化が起きて、その会社と縁が切れてもいい状態になったので、その男との縁も切れました。
『お前が仕置きしなくても、こういう輩は天に近々仕置きされるであろう』
とまた胸で囁くのです。
聞いたところでは、その後、その男は同じように調子に乗って、とうとう首になったそうです。
「お前、どこの組のもんや」「俺にはやくざが後ろについているんや」
こういうことを言う輩を、本当のやくざが聞いたら、「ええ加減にせい!指をつめるだけでは済まんぞ!」と大いに怒ることでしょう。
わたしは、こういった経験をこの30年間に、海外でも何度も経験してきました。
その時、いつも勇気を奮い立たせてくれたのが、胸の囁きでした。
時には、勇気を前に出さなければならないことがある。
時には、勇気を後ろに出さなければならないこともある。
そのような時、的確に指示をしてくれたのは、傍にいてくれた神であったのです。