第十三章  刑事の悩み

ロイヤルホテルのバーで見せた永井刑事の曇った表情が、ずっと気になっていた隆二だったが、テレビを見ていると、彼が言っていた、最近の警察の事件解決率が極端に落ちていることをテーマにした番組が放送されていた。
その番組の中で、何故、警察の犯人検挙率が落ちているか、そのツボはどこにあるのかを中心に、あたかも警察から逃れる方法をぬけぬけと教えるように放送していた。
「これでは、ますます犯罪者に知識を与え、新しい犯罪を生む手助けをしているようなものだ。また、警察もその番組の取材に答えて、警察の弱点を披露しているではないか。この国は一体どうなっているのか・・・」
隆二は義憤を感じて永井刑事の家に電話をした。
「阪本さんも観ておられましたか?あれはやらせの番組ですよ」
「やらせの番組ですか。それなら取材に答えていた警察は、偽者ですか?」
という質問に対しての永井刑事の答えを聞いて、隆二は慄然とした。
「いや、あれはれっきとした警察官ですよ」
「れっきとした警察官が、テレビであんなことを言っても、何もお咎めはないんですか?」
「逆ですよ。上の方からの命令なのです。ああいう風に答えるようにと・・・」
隆二は、何が何だか判らなくなった。
「いいですか、阪本さん。僕があなたに刑事になったらと言ったのは、今の警察の事件解決や犯人検挙率が落ちているのは意図的に為されたものなのです」
「一体、何の為に?」と迫る隆二に、刑事は黙っていたが、決心したように話し始めた。
「こういう事態になってくると、当然、治安が悪くなってきます。つまり、危険な国になる。そうすると、それを食い止めるのが国家の責任になる訳です」
「それは、当然のことでしょう」
「すると、国家は、治安を良くし犯罪を防止するという理由で、監視の目を強める政策を採ってきます」
「まあ、そうなるでしょうね」隆二は頷くしかなかった。
「ここがミソなんです。最初から国民の監視が国家の目的なのです。しかし公にそんなことは言えない。表向きは、主権在民の民主主義国家なのですから」   
「それでは、犯罪検挙率が落ちているのは、意図的に為されたものなんですか?」隆二は怒りを爆発させる寸前だった。
「いいですか、阪本さん。冷静に考えたら判るはずです。これだけ情報化社会になり、コンピュータ管理された社会になれば、必然的に犯罪は減ってくるはずです。犯罪が減るというのではなく、犯罪をしても、すぐに表面化するのです。本来、犯罪というのは、薄暗い、人目につかないところでされるものでしょう。ところがまともなプライバシーも守れないような現代社会で、裏でこそこそするようなことは不可能になってきています。それなのに犯罪検挙率が落ちているのは矛盾しているとは思いませんか?」
『そういえば、そうだ!』と隆二は思った。
「それなら、警察も信用できなくなるじゃないですか!」
「だから、阪本さんに刑事になるよう言っているのではないですか!」
「警察を監視するシステムが必要なんではないですか?」
「どこの世界でもそうですが、特にこの国は、新しく出直すためには徹底した破壊が必要なようです」
何気なく自分の哲学というか美学で会社を辞めた隆二だったが、自分の天職を発見できそうな予感がした。