第十五章  退廃国家

そして、一週間が過ぎた。
すっかり新宿警察の一員になったつもりでいた隆二のところへ、同じ仲間の一人の刑事がやって来て、昼食を誘ってきた。
永井刑事は別の用件で一日いないので、隆二もその誘いにのった。
「阪本さんは、えらく永井さんに気に入られたようですね。まったく羨ましいかぎりです。我々は永井さんから相手にもしてもらえないのです」
刑事の様子から、『鬼のいぬ間にちょっかいを出しに来たんだ!』、と読んだ隆二は彼らの意図を逆に探ってやろうと思った。
「みなさんは、永井さんのこと、どう思っておられるのですか?やはり憧れておられるのですか?刑事だと言っても、あれだけ余裕のある生き方をしている人は、今まで見たことがありません」
刑事は頷いている。
「普通一般の人間には到底真似できません。恵まれた方じゃないですか。永井さんに誘われて、わたしもつい調子にのって、四十の手習いで刑事の真似事を始めましたが、正直言って後悔しています。正式な刑事でもないのに、刑事になったつもりで、つい永井さんに乗せられてしまって・・・。
結局は、あの人の便利屋として使われているだけです」
最初は警戒心を解かなかった刑事だが、隆二の言葉で体を乗り出して喋り始めた。
「我々のような法を守る職業人でも家庭もあるし、いろいろな人間付き合いもあるから、本音と建前を使い分けるのも仕方ないことだと思いませんか?」
我が意を得たりと喋り続ける。
「永井さんのように、ひとつ間違えたら中国の皇帝になっていた人の考えに合わせるのは土台無理な話です。警察官も最低限の法を守るしか出来ない、ただのサラリーマンですよ」
「そうでしょうね。気の毒に給料も安いらしいですね。それで命を張って危ない橋を渡るなんて間尺に合わないですよね?」
隆二の言葉にますます体を乗り出してくる。
「この前もテレビで、最近の犯罪の未解決件数が激増しているのをテーマにした番組があって、わたしも見ていたのですが、警察官の方が取材に答えて、どのようにしたら未解決事件になるかを詳しく話していましたが、あの警察官の気持ちも分りますよ、多分テレビ局からお礼をもらっているのでしょう?それでないと満足な生活を送れないんでしょうね。判りますよね?」
刑事の目が爛々と輝いて、ぺらぺら喋り出した。
「あの番組に出ていた警官はわたしの友達です。テレビ局から百万円もらったと言ってました。ほとんどの警官は、暴力団からもお礼をもらって目こぼししています。政治家、官僚、財界人・・・あげていったらきりがありません」
口角に沫を飛ばしながら続ける。
「盗聴活動の合法化が成立しました。表向きは犯罪者の検挙率を上げるためだったのに、結果は逆に検挙率が下がっている。盗聴の目的が他にあるんでしょうね?」
隆二は核心に触れる質問を続けた。
「あれの真の狙いは、一般大衆の不穏な動きを事前キャッチするためです。これだけ日本の国が疲弊、退廃してくると、一般大衆から不満が噴き出るのが当然です。それを抑え込むのが真の目的ですよ」
「そんなこと誰が画策しているんですか?政治家ですか?」
こうなったら、とことん訊き出してやると隆二は続けた。
「政治家なんてロボットですよ。やはり官僚です。大蔵官僚、いや今は財務官僚ですが、彼らを中心に、その右腕に法務省次官、左腕に防衛庁次官、その下に警察庁、公安調査庁、さらにその下に国土交通省・農水省・厚生省が資金調達役・・・。もうきっちり固められています。日本国民の奴隷化プロジェクトと呼ばれています。わたしたち一人ぐらいの正義感でどうこうなる問題ではありません」
腹の中が煮えたぎる思いで聞いていた隆二は、作り笑いをしながら言った。
「わたしも、おこぼれを頂戴する仲間の隅に置いて下さいよ!」
その刑事は頷いた。