第十六章  生まれた絆

隆二は東京にいる間は新宿西口にあるハイアットホテルに泊まっている。
永井刑事が個人事務所として一室を借り切っている部屋だ。
大きなスイートルームで、ベッドルームとリビングがセパレートされていて、事務所としてこんな快適な場所は他にない。
普通宿泊するなら一泊10万円近くはするだろう。
『本当に底知れぬ人だ!』
隆二はいつも思うのだが、本人はまったくオープンで、この個人事務所を持っていることは新宿警察のみんなが知っている。
しょっちゅうみんなを集めてパーティーをやっている。
新宿警察では二人の所長がいると言われている。
公の所長は、新宿警察ともなると高級警察官僚が2年から3年交替で40才そこそこの青二才に毛が生えたようなのが来る。
そんな連中はまったく仕事に関心はなくて、時間を消化しているだけで、いつか本庁のトップになるのを夢見て、一日中所長室で本を読んでいる。
財務省のいわゆるキャリアーなどは、20才後半で全国の税務署長回り(世にいう若様の旅まわり)をして、自分の歳の倍もする連中、いわゆるノンキャリアーを顎で使う。
隆二の大学の後輩で大蔵省に入ったのがいて、今は大阪の一地方税務所の課長補佐をしているが、27才の所長のかばん持ちをさせられている。
話を聞いていると虫酸が走る。
ついこの間もその後輩と会った。
「『お前みたいな、俺の子供と同じような年で、親にかばん持ちをさせて平気でおられるような奴が、この国を支配していくなら、この国は間違いなく滅びる!』と怒鳴ってやれ!」
隆二が今度は口角沫を飛ばした。
その後輩も情けない。
「そんなこと言ったら、自殺するようなものですよ。彼らは雲の上の存在で、話をするだけでも恐れ多い方で、とんでもない!」
隆二の言っていることが、世の中のことを知らない非常識だと言う。
実に情けない国だ。
『こんな国が経済大国なんて自惚れて世界の先進国だと思っていたら、とんでもないことになる』
永井刑事が大阪から帰って来た。
「一体、何の用事で大阪に行かれたんですか?」
隆二が永井刑事に訊いた。
「いや、ちょっと会わなければならない人達がいたので」
ただ笑うだけだった。
隆二は自分より一回り以上年上の刑事を、知らぬ間に兄のような気持ちで接するようになっていた。
「永井刑事さんの言われていた通りでした」
新宿警察の同僚刑事から聞き出したこと、後輩の税務署員のことを話した。
「阪本さんは、特殊な能力をお持ちですね」
言われた隆二は、その意味も考えずに「阪本さん。という言い方だけは勘弁して下さい。阪本君か君でも結構ですから・・・」
永井刑事は笑いながら答えた。
「分りました。僕より12才も若いのだから、君と呼ばせてもらいましょう」