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第二十章 刑事・阪本隆二 「あなたが、これを出して逮捕して下さい」 永井刑事が隆二にはじめて「あなた」と言った。 永井刑事から里見の逮捕状を厳粛に受け取った隆二が返事した。 「はい、承知しました」 伊丹空港から大阪市内への高速道路はいつも渋滞で、目的地の本町まで1時間掛かる。 永井刑事が一連の殺人事件の経緯を説明しようとすると、隆二が手で遮って言った。 「わたしに説明させて下さい。今後の民営警察のためにも・・・」 永井刑事は嬉しそうに頷いた。 「まず第一番目の佐藤さんを殺した犯人は、十字架に架けられた高田社長の犯行でしょう。会社閉鎖の推進に自分がハミゴにされた高田社長は部下の佐藤部長を責めたが、佐藤部長はバックに将来の社長候補である山科専務という虎の威を借りて、高田社長を一蹴した。そこで殺意が生まれ、酒の好きな佐藤を、何か理由をつけて歌舞伎町に誘い出し、ホテル街の暗闇で刺し殺した。考えてみれば、あのホテル街を抜けて職安通りを出たところに彼らの行きつけのバーがあったんです。多分食事をした後、ホテル街を抜けるのがいつもの道だったから佐藤部長も油断していたのでしょう」 永井刑事は黙って聞いている。 「第二の佐藤夫人殺しの犯人は里見でしょう。里見と佐藤夫人は前から肉体関係にあったのだと思います。里見は以前から女房が訳の分らない新興宗教に狂っていることで困り果てていた。その教団に一度入ると、夫婦共に入信しないと、夫婦関係も壊れるような過激な教団なのです。しかし里見は入信した。それは山科専務が山科夫人の説得で先に入信したからです。山科は里見にも入信を半ば強要した。山科の引き上げでノミの心臓が専務にまでなり、将来社長候補と言われている山科から言われれば断ることが出来ない。ところが女房との関係が冷えてしまった里見は、真面目に離婚を考え、次の相手を探していた。そこへ山科専務が可愛がっている佐藤夫妻と出会い、仕事一筋で無愛想な佐藤部長にうんざりしていた早苗夫人に魅かれた里見が彼女を誘惑した。里見は多分奥方と離婚して一緒になると早苗夫人に言って誘惑したのでしょう。そこへ佐藤部長が死んだ。早苗夫人は里見に離婚を迫り、嫌なら二人の関係を山科専務にばらすと言って脅した。 困った里見は、佐藤部長の殺人犯に罪を被せるため、歌舞伎町のホテルに早苗夫人を誘い、外に出たところを同じように刺し殺した。そして同じ犯人のように見せかけるために般若の面を残した」 永井刑事が身を乗り出してきた。 「佐藤部長を殺し、強盗殺人のように見せかけ、まんまと警察もはまって、ほくそ笑んでいたのに、早苗夫人が同じ現場で殺され、計画殺人と警察が考えを変えたことで、危機感を感じた高田は、以前から佐藤夫婦がうまくいってなくて、女好きの里見が早苗夫人と出来ていたことを知っていた。高田という男は敬虔なカトリック信者なのに、メジャーな大学を出ていないコンプレックスをカバーするために、技術屋でありながら、上司にゴマを摺りまくっても出世をしようとする魔性を持っていた。上司のスキャンダルの情報をせっせと集める悪癖があり、里見と早苗夫人のことも知っていて、早苗夫人殺しは里見だと見抜き、里見を脅した。皮肉なことに二人の殺人犯が向かい合ったわけです。 里見は敬虔なカトリック信者を非難する教団の体質を見抜き、また高田と山科専務は犬猿の仲であるのを利用した。山科専務は里見と違って真剣に教団の教えを信じていたので、高田が憎くて仕方なかった。それで花園神社での十字架刑を考えだしたのです」 「なぜ花園神社なのですかね?」 永井刑事が質問を投げかけた。 「高田という男は偽善の塊で、きっちり保険をかけていた。里見を脅して、里見が指定した花園神社が日本武尊を祀っていることを知った高田は、里見の生家が日本武尊を祀る神社の宮司であることを知って危険を感じた。そして里見のことをばらす手紙を山科に送っていた。それと同時にわたしにも里見のことを喋ったと嘯いたのでしょう。 そこで里見は、般若の面を使い、あたかもお仕置きの殺人のように見せかけ、高田を十字架に架けた。高田は悪知恵が働くが腕力がない。一方里見は女好きであるように腕力も強い。結局、花園神社で力づくで十字架に架けた。 そして怒りの般若の面を残して、警察に次の殺人の予告をした。多分、わたしを殺すためでしょう」 隆二は息を吸い込んでから、話を続けた。 「わたしを監視し、殺しの機会を狙っていた。しかしわたしが刑事になったことで、手をつけ難くなっているうちに、山科は高田の手紙を見て、里見を責めた。足下の火をまず消さなければならない里見は、長い付き合いの下請けの取引先で同じ教団の信者に手を貸す様依頼し、8時過ぎに山科を絞め殺し、その死体を竹橋の欄干に吊るす作業をやらせ、自分は新幹線に飛び乗って大阪に帰ってアリバイ工作をした」 「どんなアリバイ工作をしたのでしょう?」 永井刑事が訊く。 「部屋に閉じこもると言って、こっそり抜け出して東京に行ったのでしょう。そして東京の公衆電話から5時過ぎに秘書に、あたかも部屋から電話をしているふりをしたのでしょう」 淡々と話す隆二に永井刑事は舌を巻いた。 |