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第二十七章 ニューホームレス 昔、アメリカを中心にヒッピー族というものが出現した。 彼らは 職を失った者ではなく、アメリカのベトナム戦争に反対する人たちが、エスタブリッシュメントであるアメリカの支配階級に反旗を翻した運動だ。 エスタブリッシュメントの連中は身なりをきちんとし、髪型もケネディーカットで有名になった短髪だ。白いワイシャツを着て、ダークブルーかグレイのスーツを着こなしている。 そのスタイルに反発したのがヒッピーで、ビートルズを皮切りに長髪が流行し、ジーンズでどこでも現れる。 このヒッピーがホームレスのルーツだ。 ところが、今のアメリカでのホームレスは明らかに世の中からの落ちこぼれ達だ。 逆に、ヒッピーたちは、ニュービジネスの旗頭になって活躍している。 日本のホームレスの場合は、その混在が実体だ。 アメリカにいたことのある五郎は思った。 チャーリーが死んでから3ヶ月が経った。 医者の卵である恭子は、五郎たちの仲間が、体がぼろぼろになっているのに気がついて以来、毎日食べ物を彼らのところへ差し入れしていた。 食生活さえ、きっちりとしていれば、彼らは、精神的ストレスはまったくない。 逆に、一般社会人より、はるかに豊かな精神生活を送れる。 最初は、みんな恭子の差し入れを固辞したが、恭子の熱意に負けて、今では毎日の差し入れを楽しみにしていた。 そして、毎日、ご老体の講義を聞ける。渋谷駅の連絡通路に彼らの寝床があるのだが、以前は、警察から立ち退き命令が頻繁にきていたが、今はまったくなくなってしまった。 みんなは、恭子の配慮だと分かっていたが、口には出さなかった。 見る見る内に、みんなの顔色が良くなってきた。 そして、服装も恭子の計らいで、まともなものを身につけるようになった。 いつもの、通り過ぎる人たちも、彼らの変化に気がつきはじめた。 そして、みんなで「Zen Master」の講義をしている光景は異様というより、際立つようになってきた。 人間というものは勝手なもので、そうなってくると、通りがかりの連中も注目する。今までは、顔をそむけていたのに、向こうから笑ってくる。 ある日、恭子がいつもの差し入れに来たとき、ご老体と五郎に、相談があると言った。 「あまり、大したものではないけれど、家を用意しました。そこへ移ってみませんか? 無理にとは申しませんが」と提案してきた。 「恭子さん。わたしたちはホームレスですよ。ホームレスがホームを持ったらホームレスにならないでしょう」と五郎は言った。 「ニューホームレスになるんです」と言う恭子に、 「ニューホームレス?」と五郎は驚いた。 傍らで聞いていたご老体が、 「なかなか、いいアイデアだね」と感心した。 「今の日本人は、自分の国を失った人たちばかりです。だから必死に自分の家庭だけを守ろうとする。だけど国を失ったら、個人の家庭なんか、ないですよね。それなら日本人全体がホームレスだと思います」熱弁を振るう恭子に、ご老体が言った。 「まったく、あなたの言う通りだ。わしは、そのことに気がついたのが、あのバブルの時だった。それまでにも、戦後の教育に大きな疑問を持っていたが、その影響が一気に出たのが、あのバブルだった。わしは、その頃、証券会社に勤めていた。 あの頃は、日本全体が狂っていた。その中で証券会社と銀行の腐敗は目にあまるものがあった。老人や一般サラリーマンを、そそのかして、株を買わせ、銀行と結託して借金をさせてまで、株を買わせる。そして損失をしたら証券会社と銀行が取り立てに行く。これで自殺をした老人や、その後ずっと借金を背負いながら、苦しい会社員生活を送っていた人たちが数えきれないほどいる。それなのに大企業や暴力団に対しては、逆に損失補填をしたり、借金を棒引きにしている。 ほとんどの大企業が損失補填をしてもらっていた。これは明らかに犯罪行為だと思った。だが当局も表面だけ取りつくろって、後は忘却の彼方に押しやってしまう。 この国は、表面は自由な資本主義国家になっているが、実体は集団独裁専制国家だ。このことに気がついて、ホームレスになったのだ。まあ、世捨て人だ」 「しかし、その状態がますますひどくなっているとは思いませんか?」と言う恭子に、 「そうだね。この国は今、羅針盤をなくして、あてもなく航海している船みたいなものだ」 話しを聞いていた五郎は身につまされる思いだった。 「誰でもいいから、この国の流れを変えるうねりをつくらないと、この国はもう駄目になってしまうかもしれない。今の若い人たちには、敗戦後の悲惨な日本を知らないから、ピンとこないだろうが、そうなったら地獄だよ」 戦後の状態を少年ながら経験している五郎には、痛いほど、ご老体の言っていることが理解できた。 「恭子さんの好意に甘えて、移ろう」とご老体は、何かを決意した表情で言った。 |