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第三十三章 意外な訪問客 托鉢を始めてから、1ヶ月が過ぎた。 朝は托鉢に出、昼間は 畑仕事をする、そして夜はまもなく始まるワークの準備と、みんなにとって充実した日々だった。マサルは、ワークの教材を夜遅くまでつくることが多くなった。蓑助もこれを手伝った。マサルがつくった教材は「欲望の根源」という題だった。 立派な本が一冊出来あがるぐらいの厚みのある教材だった。 「いったい、いつの間に、こんな本を書いていたのだろう」と、つくづく、この少年の不思議な力に驚いた。 恭子も一緒になってつくったらしい。 「こんなに、若い人たちでも、素晴らしいものを持っている」とご老体も感心していた。 そして、教材が完成した夜、恭子とマサルは、みんなに一冊づつ渡した。 みんな、それぞれ教材を読んでいた。 「まだ、教材がいっぱいあるが、これはどうするんかね」とご老体がマサルに聞くと、 「もうじき、来られますよ」と言って笑っていたところへ、ざわざわした音が外でした。 「来られたわよ」と言う恭子に、マサルは玄関へ飛んで行った。 商店街の魚屋の主人夫婦や、豆腐屋の主人、八百屋の夫婦子供やら、20人以上の人たちが押し寄せて来たのだ。 みんながマサルから教材をもらって、読んでいたが、まったく理解出来ないような顔つきをしていたが、そんなことは彼らにはどうでもよかったのだ。 「坊や。何でもいいから、為になる話しをしてくれよ」と言うと、マサルは、 「本来なら、始める前に自己紹介するところですが、わたしたちはホームレスの身ですので、偉そうに自己紹介するわけにもいきません。だから、皆さんの名前だけでも聞かせて下さい」と言った。 ひとりひとり自己紹介する中で、独り変わった初老の紳士がいた。 「あれまあ。お屋敷町の深沢さんのご主人じゃないですか」と八百屋の主人が言った。 その紳士は、その主人が商店街の八百屋の主人だとも知らなかったようで、自分の正体がばれたような、驚きようだった。 一瞬、五郎は、自分が、あの日、ホームレスになる決意をして家を出たときの気持ちを思い出していた。 「あのときの、俺と同じ気持ちなんだろうな。この紳士は」 「実は、うちの家内が、あなた方が托鉢に来られたとき、交番に通報したんです。あれ以来、わたしは何を信じて生きていったらいいのか分からなくなってしまいました。 そして、あれ以来、あなた方をずっと見守っていたんです。そして気がついたら、ここに来ていたんです」 「みんな同じ経験をしてきた人たちだから、気を楽にして。ここにいたければ、いたいだけいたらいいですから」とご老体が、やさしく声をかけたら、 「まだ、外に仲間がいるんです」と言いだした。 びっくりして、マサルに外の様子を見に行かせると、10人以上の老人が、不安そうに立っていた。 「とにかく、中に入ってください」とマサルが促して、家の中に入れたら、商店街の人たちが驚いて言った。 「なんだい。みんな、お屋敷町のご主人さまばっかりじゃねえか」 そこには、人生に疲れきった、元気のない老人が、腐りかけた魚のように、ずらっと並んでいた。 |