|
第三十七章 逆戻り ある日、ご老体と五郎が、ワークが終わった後、みんなを集めた。 「いろいろと考えた結果なんだが、わしと紳士さんは、前の渋谷駅の寝床に戻ろうと思う。これを言うと、みんなも戻ると言うだろうけど、みんなは、今まで通り、ここでの生活を続けて欲しい。そうでないと、恭子さんをはじめ、皆さんの好意を無にすることになる。どうか解って欲しい」 五郎も、その後を継いで、 「みんなは、ここでの生活から何かを得て欲しい。そのためには、この生活を続けていかなければならない。そのために、わたしと、ご老体はここにいて、甘えている訳にはいかないのです。ここのところを、良く解って頂きたい」 さすが、ワークで鍛えられてきた連中だけに、彼らは、すぐに察した。 しかし、新しい仲間に入った、お屋敷町のご主人たちは理解出来ない。 「どうしてなんかね、わしらにはさっぱり解せないね」と首をひねっている。 「お屋敷町の人たちも、一度本当のホームレスの経験をされた方がいいんじゃないでしょうか」とマサルが言った。 連中は、動揺して、ざわざわしていたが、 「本来なら、マサルの言ってる通りだが、まだこの方々では無理だろう」とご老体が言ったのに対して、 「わたしたちも、ご一緒しましょう」と最初のワークの日に一人で押しかけてきた、お屋敷町の代表格の樋口旭と言う主人が言った。 「樋口さん。本気かね?」と聞きなおすご老体に、 「わたしは、以前から、そうしたかったのです」ときっぱり言いきった。 「わしらも、その方がいい」といっせいに他の、お屋敷町の連中も言った。 「これは、ほとんど同じ年頃のホームレス・グループになりますね」と五郎が嬉しそうに言った。 「だけど、ワークには今まで通り参加してくれないと困りますよ」とマサルが念を押した。 「それは、分かっているよ」とご老体が言った。 「それじゃ、今晩は、送別会をしましょう」と浩介が言ったら、 「送別会じゃないよ。逆戻り会だ」と言って笑う、ご老体に、みんなは拍手をして、大笑いした。 |