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第四十六章 ホームレスの資格 お屋敷町の連中が、恭子に連れられてやって来た。 12人も大挙してやって来たものだから、ご老体と五郎は寝床の手配に苦労した。 中村は、こういう時には役に立つ。あつかましさで、段ボールと布団をかき集めてきた。テントは、ご老体が、どこからか集めてきた。寝床のある渋谷駅の連絡通路は、屋内だから、雨風には心配ないのだが、みんなテントを張って、通行人からの視線を避けていた。 新宿駅東口の地下や、地下鉄大手町の地下にいるホームレスの連中は、堂々と寝床をオープンにしている。 特に地下鉄大手町の連絡通路に居を構えている連中の数は桁違いに多く、その光景は圧巻である。しかも新宿の連中は若手が多いが、大手町の方は年寄りがほとんどだ。 ご老体は10年以上もホームレスをやっているから、こういった情報には詳しい。 その経験の中で、自分たちのグループは、みんなテントを張った。 テントを張ることによって、外界と遮断できるのは、独りの世界を楽しむには、絶大な効果があった。しかも、たったテント一枚で、通行人が発する騒音を遮断してくれる。 そのお陰で、寝床にもぐり込むと、実に落ちつくのだ。 以前、ご老体が大手町の連中の処へ行ったとき、テントの提案をしてやったことがある。その時の彼らの反応は、ご老体には予想もつかないものだった。 彼らは、自分たちの姿を、通行人に誇示しているのだ。何故誇示しているのか、尋ねてみたら、自分たちがこうなったのは社会に原因があるからだ、通行人が代表する社会一般が悪いからこうなったのだと、思っているのだ。 同じ年寄りでも、考え方の大きな違いを感じた。 そして、人間としての精神レベルがまったく違う。彼らは唯物的で、物質的問題から、端を発してホームレスになっている、いわゆるホームレスの本流だ。昔流に言えばルンペンの流れを引き継いでいる。 だから、一般の人間とトラブルを起こす。 渋谷のグループは、年寄りは、ご老体一人だけであったが、みんな唯心的で精神的問題からホームレスになった連中ばかりだった。 だから、「努力」なんていう字を見事な毛筆で書いて寝床に張って、座右の銘にしている者もいる。 「最近、この類のホームレスが激増している」とご老体は、新しい仲間に言った。 「それじゃあ、今日でまた12人加わったのですね」と中村が嬉しそうに言った。 それぞれ自分の寝床を、教えられながらつくった12人の新しい仲間は、みんな最初の素晴らしい経験をした。 「寝床を、自分でつくって、最後にテントを張り終えると、自分の手で家をつくり終えた充実感と、その後にやってくる、独りの世界にいるという実感が、何ともいえないリラックスした気持ちにさせてくれました。こんな気持ちになったのは初めてです」 と新しい仲間の一人が言ったら、他の連中もみんな同じ気持ちになったと言う。 「自分も、同じ気持ちを味わったなあ」と五郎も、その時のことを思い出しながら呟いた。 「しつこいようだけで、これだけは忘れないで欲しい。我々のようなホームレスは、これから増えていくことは確かだが、決して、大半の連中は違うということを」 ご老体はみんなに強く言った。 「上原の落ちこぼれ道場も、その気持ちを忘れないために始めたので、ホームレスの立場で、おこがましいと今でも思っているが、新しいホームレスの資格というか、人間として失ってはならないことを体得して欲しいと思っている」 ご老体は、新しくやってきた12人の仲間に言った。 「何か、新入社員の入社式での社長訓示みたいですね」と中村が言ったら、 ご老体は、中村を睨みつけた。 |