第四十九章 後ろ盾のない不安

中村を仲間から追放する使命を受けた砂塔は悩んだ。
中村を追放することに対する罪意識で悩んだのではない。どうして追放することが出来るか、まったく方法が分からないのだ。
その時初めてご老体が言った、「お前さんも、中村と同類だよ」と言われたことが、何となく、分かったような気がした。
「大きな組織のトップでいながら、一人の問題ある人間の処理も出来ない。よくそれで大企業の社長が務まるもんだ。どうしようもない人間でも務まる大企業の社長も務まらない自分は、もっと悪い。ご老体はそのことを言っておられるのだ」
砂塔は、つくづくサラリーマンが嫌になった。
寄らば大樹の陰、虎の威を借りた狐、と言った格言があるが、本当に一匹狼で生きていく力がないのだ。
これは、生物が生きていく上で失格だと烙印を押されたのと同じことだ。
すべては、一人で生きていくのが自然の摂理なのに、何かに寄りかかる後ろ盾がないと立っていられないのだ。
五郎は、悩んでいる砂塔に声をかけた。
「わたしも、大企業の役員をやっていたからよく分かるのだが、結局権力なんて、何の役にもたたない。最後にものを言うのは、器量であり、見識であり、そして志をベースにした熱意、使命感だと思うね。ところが、みんな小手先だけで対応している。
そうである間は、あんたのような人間はますます増えてくるだろうね」
「わたしは、熱意、使命感は充分に持っていると思っていました」と言う砂塔に、
「この問題は、あんたの問題だ。あんたが決着をつけるしかないんだ。その山梨という会長と指しで勝負するしかない。それを、うまく山梨を使いこなしているなんて思っていることが、あんたの思い上がりだ。まあ、ここは中村を練習台にしてみることだね」
はっと気がついたように、砂塔は五郎に聞いた。
「ご老体も、はなからそのつもりだったんでしょうか?」
「ご老体は、奥が深いから、わたしにも分からない。だがわたしの言っていることは確かだと思う」
砂塔は、なかなか素直な面がある、それが彼のいいところかも知れないと五郎は思った。ああいった大きな組織の中で偉くなった連中は、頑固というより、頑迷だ。
そして、その頑迷さが会社を滅ぼしてしまうのだ。
特に最近、超大企業が経営危機に陥っているのは、みんな能力もないのに、薄っぺらなプライドからくる頑迷さが原因になっている。大手スーパーのオーナーなどは、その典型的なケースだ。
砂塔は、腹をくくった。方法など考えずに、当たって砕けろで行く決断をした。
中村はそんなことも露しらず、お屋敷町の連中と談笑していた。
その中村の前に砂塔は仁王立ちした。