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第五十五章 ゴッドファーザー お屋敷町の三人組のところに着いた五郎と砂塔は、事前に連絡をして、恭子に連れて来てもらっていた、ご老体と屋敷の前でおちあった。 ビール会社の社長をしていて、名誉会長の独裁に嫌気がさして、ホームレスになった主人の屋敷の前だった。 結局、その独裁会長に首をはねられたのだ。 門のブザーも押さずに、砂塔はご老体と五郎を連れ立って玄関を開けて入って行った。 ホールに入って、 「砂塔ですが、どなたかいらっしゃいませんか」と大きな声で言うと、奥方が出てきた。 「まあ、砂塔さん。お久しぶりです」と奥方が言った。それを聞いた五郎は 「かなり親しそうだ」と思った。 「ご主人は、おられますか」と聞くと、 「書斎にこもったきりで、出てきませんの」奥方も、憔悴した様子で小さく答えた。 「じゃあ、勝手に書斎に行かせてもらいます」砂塔はそう言って、ふたりを促して、靴を脱いで書斎の方に歩いて行った。 ノックもせずに書斎に三人が入ると、まるで幽霊のような顔をした主人が机の横のソファーに座っていた。 三人の顔を見て驚いた彼は、 「砂塔さん。一体これは何のまねだね」と声を震わせながら叫ぶように言った。 それまで、黙っていたご老体が前に出て言った。 「葬儀屋さん。わたしへの借りは憶えているだろうね」 ご老体の言っている意味がさっぱり分からない五郎と砂塔だったが、主人は解っていた。 「ご老体、これは一体どういうことですか」と五郎が聞くと、 「おちこぼれ道場に、この葬儀屋さんが、他の連中と一緒に来たとき、彼はわたしに一つの頼みをした。その頼みは、わしにとってはいとも簡単なことだったが、あまり安易に頼みごとをするので、ゴッドファーザーという映画の話しをしてやったのだ。それ以来、彼は、わしのことをゴッドファーザーと呼び、わしは、彼のことを葬儀屋さんと呼ぶようになったんだ」 ゴッドファーザーという映画は、五郎も好きで何回も見ていたから、すぐに二人の関係が判った。 映画の最初のシーンで、葬儀屋が、自分の娘を三人の男に暴行されたのに、裁判で執行猶予になった三人の男たちに復讐して欲しいと、ゴッドファーザーに頼みごとをしている場面から映画は始まる。 しかし、ゴッドファーザーは、同じシシリー島出身なのに、一度も自分のところに来たこともない。そして、頼みごとをしたい時だけやって来るのは、道理が合わないと言って断るのだ。葬儀屋は、マフィアの親分だから金で片づけられると思って、いくらお礼をすればいいのかとゴッドファーザーに聞くと、ますますゴッドファーザーは怒り、自分は金で動く男ではない、敬意を表すれば、それだけでいい、と言って追い返そうとした。 そこで、葬儀屋は、ゴッドファーザーの前に膝まずいて一言「ゴッドファーザー」と言う。それだけでゴッドファーザーは頼みごとを引き受ける。 そして、「これで、ふたりは友達だ。いつか、逆にわたしの方が頼みごとをすることがあるかも知れない、その時には連絡するよ」と言って別れるシーンだ。 そして、その頼みごとをする事件が起きた。ゴッドファーザーの息子が撃ち殺されて蜂の巣のようになったのだ。ゴッドファーザーは葬儀屋を呼んだ。何を頼まれるかと不安に思った葬儀屋は、殺された息子の前で、無惨な姿になった息子を、綺麗にしてやって欲しいと頼む。その時、初めて、葬儀屋は心底、ゴッドファーザーと思った。 というストーリーだ。 人間関係というのは、商売だけではなく、すべての面でGive And Take だ。 相身互いだ。 それを、安易に頼みごとをする者に限って、ただほど高くつくことを知らない。 そして、今度は頼み事をされて断る。これが、ただほど高い、ことなのを知らないのだ。 「葬儀屋さん。前に、わしから頼みごとがあった時は連絡すると言ったね、憶えているだろう」とご老体に言われて、 「はい、そう言いました」と葬儀屋は答えた。 「それじゃひとつ、中村をぶた箱に放り込んでくれ。ひょっとしたら、お前さんも一緒にぶた箱行きかもしれんが」 葬儀屋の顔は真っ青になった。 「分かりました」と一言云うだけであった。 「なかなか、腹がすわってきたじゃないか、葬儀屋さん。腹のすわっていない奴や、要領だけで生きてきた奴は、必ず、ぐずぐず弁解を言うもんだ。これが男の中で最低の奴だ。何も言わずに黙って男らしくやることが、男の値打ちだ」 この会話だけで、すべてが解決するのだった。 ご老体は、まさにゴッドファーザーだ。 |