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第六十五章 大当たり 一日で20ドルから30ドルがホームレスの稼ぎ高の平均なのに、ふたりで300ドルも稼いだことが、サンセットカジノの仲間の間で反響を呼んだ。 特にご老体の容姿が、こちらの人間にとっては印象的だったようだ。 それと「南無阿弥陀仏」という字がアメリカ人を惹きつけた。 今、アメリカでは刺青が大流行で、特に日本の彫師の技術の素晴らしさが評判を呼んで、漢字の刺青をした者がいっぱいいる。だから「南無阿弥陀仏」という字に関心を持つのだ。 アメリカでは刺青をいれることに、それほど罪悪感を感じていないらしくて、若い者から年寄りまで、一般の人間が、おしゃれのつもりで気軽に刺青をいれる。 日本と大違いだ。 三日間、同じ場所でマイケルや他の仲間と立ち続けたふたりは、1000ドル以上稼いでしまったのだ。 稼いだ1000ドルをみんなで使って欲しいと、ふたりは申し入れた。 白髪の老人マーシャルが、「No! It's not fair. That's yours. You got free to do with this money(いや、それはフェアーじゃない。それはお前さんが稼いだ金だから、自由にすればいい)」と言って受け取らない。 ふたりにしても、お金のためにアメリカに来た訳ではないので、困った表情をしていると、マイケルが、ストリップのベラッジオでルーレットでもやったらどうだと言うので、ご老体も五郎もバクチは嫌いではない方なので、それではカジノで使わして貰うと言って、その日はちょうど土曜日で、ベラッジオでは金持ちのユダヤ人、中国人、インド人などが大金をはりに来るので行ってみることにした。 「せっかくのお布施の1000ドルをバクチで使うのは気がひけるが、みんながそう言ってくれるなら一発大勝負するか」とご老体がいきいきした顔で言うと、 「1000ドルなんて、はした金ですよ、ベラッジオでは」と言うと、ご老体はニタッと笑って自信あり気に、こう言った。 「バクチには資金力の問題よりも度胸と経験の方が物を言うんだ」 ホテルのルクソールからベラッジオまで歩いても行けたが、玄関にあるリムジンをチャーターしてベラッジオに乗り込んだ。 服装は例の僧侶のやつだ。 車をおりて、玄関からロビーに入ると、みんないっせいにふたりの姿に驚いて見た。 フロントの正面がカジノの入り口で、その横で生のピアノ演奏をしているカフェがあったが、ピアノを弾いていたアジア人女性まで、びっくりしてピアノの指をとめた。 五郎は、ここはご老体におまかせだ、という気分でついていった。 「ブラックジャックのテーブルはどこかなあ」と探しているご老体に、 「あそこが、一番大きくはるテーブルのようですよ」と五郎が指さした。 さっそくご老体は、そのテーブルにすわった。 二人の客が一回1万ドルずつはっている。まわりは見物客でいっぱいだ。 そこへ坊主の格好をしたご老体がすわったものだから、ざわざわし出した。 早速、なけなしの1000ドルをチップにも替えずに、ご老体はテーブルの上の円の中に置いた。 ディーラーの女性も最初は、鼻にもかけずにたんたんとカードを配った。 ご老体の配られたカードはジャックの絵札と8のハートだった。普通ならそれ以上カードを引かない。 他の客は、2枚で16と15だ。ディーラーは2のスペードだ。もう1枚は伏せられている。ディーラーは一番右側にいるご老体の方から3枚目のカードを配るのだが、ご老体のカードが18なので、パスして次の客に配ろうとしたとき、 「Come on!」とご老体が叫んだので、ディーラーも他の二人の客もびっくりして、いっせいにご老体の顔を見たが、ニタッと笑いながら、指でこいこいとする。 もう1枚引くというサインだ。 信じられないといった顔をしてディーラーは、もう1枚配った。 一瞬、「ウオー」というざわめきがした。3のハートだ。 その後、毒気に当てられた二人の客は、3枚目を引くつもりはなかったが、つい引いてしまったら、両方ともきっちり22の数字で1万ドルがパーになった。そしてディーラーが自分のもう一枚のカードを開いたら絵札だった。12だから17まで引かなければならない、次が3で、その次が5で20だ。 また回りの客からざわめきの声がした。 ご老体が1000ドル勝ったのだ。 そのまま2000ドルをまた置いた。カードは17だ。ディーラーの1枚のカードは絵札だ。 またご老体は3枚目を引いた。4のスペードで21だ。そして二人の客は17と19で、引かずにパスした。ディーラーが2枚目を開けたら絵札で20だった。またご老体だけの勝ちだ。 そして4000ドルをそのまま置いて、引いたご老体のカードは2枚で13だった。 一方ディーラーはハートのエースを引いた。断然ディーラーが有利だ。しかしご老体は21になるまで引き続けて、きっちり21にした。ディーラーのカードはエースと9でまた20だ。他のふたりは、プレーをやめて見物客になった。 8000ドルをまたそのまま円の中に置いた、ご老体は、 「リアルブラックジャック」と叫んだ。 ディーラーはすでにおどおどした表情に変わり、最初の1枚目を配った。スペードのジャックだ。そして2枚目を配ると、スペードのエースで、ご老体の予言通り、本物のブラックジャックだった。ディーラーもその横で見ていたマネージャーも真っ青な顔になった。1000ドルがたった4回のプレーで2万ドルになったのだ。 「さあ、次のゲームに行こう」とご老体は立って、今度はルーレットのところに行った。 そして、シングルナンバーのMaxの賭け金がそれぞれ200ドルだと聞いて、2番の数字のところに100ドルチップを2枚ずつ置いていった。真中に2枚、5辺に2枚、5角に2枚、1,2,3のラインの真中に2枚、両側に2枚。計28枚だ。これがラスベガスのカジノの一般客のルーレットで最高の賭け金だ。 そして、ディーラーがスピンした盤にボールをシュートした。 ころころところがり落ちていくボールをみんな注目していると14の数字のところにボールは入った、その瞬間はねたボールはその隣の2番のところにおさまっていた。 「さあ、大変だ。一体いくらになるのだろう」と五郎は内心思いながら見ていると、ディーラーから3万3千8百ドルのチップが払われた。 「You failed! Thirty eight thousands and two hundreds(そりぁー違う。3万8千2百ドルだ)」とご老体は静かに言って、そのチップを押し返した。 テーブルの中ではディーラーやマネージャーがメモ用紙を取りだして必死に計算している。 見物客の中から、「He is right. Casino is wrong(そうだ、そうだ、ディーラーが間違っている)」という叫び声がした。 マネージャーが謝りながら「We are sorry. You are right(すみません、間違っていました)」と言って3万8千2百ドルのチップが支払われた。 そして、そのまま2番の回りに置いたチップを動かさず、「Spin the wheel!(まわせ!)」とご老体は言った。言われるままに、入れ替わったディーラーがボールをシュートすると、 「Back to back!(もう一回!来い)」と今度は大きな声を出してご老体は叫んだ。 そうすると、吸い込まれるように白いボールは黒のバックに白字の2という数字のところにすべり込んだ。 「次はクラップスだ」 「ご老体、もう1000ドルが10万ドルになったからいいでしょう」と五郎が言ったが、 「いや、これからが、本番だ」と言って大きな箱のような回りに客がたむろしている所に行くと、ご老体はMax.50000Dollers と書いてあるのを見て、5千ドルチップを10枚、近くのディーラーに投げて、「High Twelve(6のゾロメだ)」と言った。 「What?(何だって?)」と聞き返すディーラーに、「Twelve Crap Fifty Thousannds(6のゾロメに5万ドルだ)」とご老体は言った。 真中にすわっていたマネージャーが、4人のディーラーを呼んでこそこそしゃべっていた。 「Shooter! Shoot Dices(サイコロを投げろ!)」とご老体が叫ぶと、若い男がシュートする番だったが、慌てて、ディーラーから送られてきた2個のサイコロを投げた。 6の目のサイコロが二つ並んでいた。 「ウオー」とみんな叫ぶ。 長いバーを持ったディーラーが、ご老体の方を向いて、 「One million and Fifty hundred thousand(150万ドル)」と大きく、他のディーラーに指示した。 その日のベラッジオはさすがに、ご老体の毒気に当てられた。 翌朝の新聞やテレビニユースでそのことが流された。 そのテレビを見た、ひとりの男が、大声で叫んでいた。 「I gave that fucking homeless one hundred bucks, shit!(あいつに間違ってやった100ドルで稼ぎやがった、あの野郎!)」 |