第六十六章 送別会

ご老体の神がかり的な、バクチ感で1000ドルがあっという間に150万ドルになった噂は、日本にも伝わった。
「どっちみち日本の税関でごっそり税金を取られるだけだ。みんなアメリカに置いて帰ろう」と言った意味が、五郎にはよく分からなかった。
「全部あのホームレスの溜まり場のサンセットカジノにホームレスの連中のために置いて帰るんだ。どっちみち彼らのお陰で稼げたお金なんだから」
ご老体は、よほどサンセットカジノのことが気に入ったらしい。
そのことを、みんなに伝えると、マーシャルが、それはヒロヒトが稼いだ金だから日本に持って帰るのが道理だと言ったら、他の連中も同じ意見だった。
しかし、ご老体は頑と聞かず、それならと、ここにいるみんなの名前で、サンセットカジノに投資することを提案した。
カジノの経営者の息子のマイケルに、ご老体と五郎は相談した。
マイケルは一応親父には相談するが、自分は喜んで投資をしてもらうと言って約束してくれた。
2週間があっという間に過ぎた。
最後の夜、サンセットカジノで送別会をしてくれた。
カジノの客もいれての大パーティーだった。ここの客はほとんど常連客ばかりで、一見の客は、ちょっとびびって入ってこない。
ただ送別会の夜、三人の日本人が入ってきた。車が故障をして近くの整備工場に入れたら、直すのに3時間はかかると言われて、時間潰しに前にあったカジノに入ってきたのだ。
最初は、さすがびびったようだが、パーティーをやっており、それが日本人の送別会だと聞いて安心したようだ。
その中の一人の女性が、五郎のところに来て、
「ラスベガスにこんな面白い場所があるなんて知りませんでした。わたしたちは日本からの旅行者で、もう三人で半年ほど全米を車で旅行をしているんです。ロスからデスバレーに来たついでにラスベガスに寄ったのですが、あまりにも観光客が多くて、早々にソルトレークに行こうとしていた途中で車が故障してしまって、たまたま前にあった、このカジノに入ったら、すごく気に入りました」と興奮して、しゃべった。
「わたしも、長年アメリカに住んだこともあるし、ラスベガスにもよく遊びに来ていましたが、ストリップの大カジノホテルとグランドキャニオンのイメージしかなかったのです。ところが、今回来てみて、本当のラスベガスを見た感じを持ちました」
五郎も同じ気持ちだと言った。
「ところで、今日のパーティーは何なのですか?」と聞かれて五郎は、
「わたしと、あのご老体の為に送別会をしてくれてるんです」と答えた。
五郎は自分とご老体が日本でホームレスをしていて、アメリカのホームレスを見たくて、ラスベガスに来たこと、そしてここがホームレスの溜まり場になっていることを説明した。
話しを聞いた女性は、よほど好奇心が強いらしく、目をらんらんと輝かせて聞いていた。
そこへ、ご老体が来て五郎に、
「よう、紳士さん。ここは本当にいいなあ。雰囲気もいいし、人もみんなおおらかでいいし。わしはずっとここにいたくなったよ」と言うと、
「実は、わたしもそう思っていたところです、立原さん」と五郎が返事した。
「とうとう、わしの名前を言いおったのう、山本君」とご老体も言い返した。
アメリカのラスベガスで、しかも日本人が絶対に入れそうもないカジノで、アメリカ人がふたりの送別会をしてくれる中で初めてふたりは、お互いの名前を呼び合った。