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第六十七章 帰国 サンセットカジノに150万ドルの投資の手続きをして、ふたりは帰国の途に着いた。 成田空港には、恭子とマサルが迎えに来てくれていた。 「お帰りなさい。すごいご活躍だったですね」とご老体に向かって恭子が笑うと、 「立原さんだよ、これからは」と五郎が恭子に告げた。 恭子よりマサルが、ご老体の名前を聞いて驚いた様子だった。 「マサル。わしの名前は立原裕仁と言うんだよ」と言うご老体に向かってマサルは涙ぐみながら、「やはり、僕は今まで通りの、ご老体の方がいいです」と言ったマサルの表情に、少し大人になったような感じを五郎は持った。 「ちょっと、変わったな。マサル」と五郎が言うと、横から恭子が顔を赤らめながら、 「わたしたち、恋人同士になってしまったんです」と告白した。 「やはりな。いずれはそうなるんではないかと思っていたが」と頷きながら、ご老体は嬉しそうだった。 「恋人同士なんて、そんな。恭子さんはオーバーに言ってるだけですよ」とマサルも顔を赤くして横に振ったが、 「いいじゃない、お互い好きだということが確認できたのだから。だけどまだ肉体関係までいってませんから」とあけすけに言う恭子に、マサルの方がたじたじとしていた。 恭子の運転する車で、上原の道場に向かった。 「留守の間、何か変わったことはなかったかい」とご老体が聞くと、 「別に、わたしたちの周辺は変わったことはありませんでしたが、あちらでもニュースで聞かれたかも知れませんが、また日本の首相が交代ですって。一体この国の本当のリーダーっているんでしょうか?」と恭子が憤慨しながら言うと、「アメリカに行ってみて、つくづく感じたが、日本という国を最初は変わった珍しい国だと、良い風にとっていたが、まったく違う。不条理が平然とまかり通る、以っての外の国だ。このままでは間違いなく滅びていく運命が待ち受けているだろうな。アメリカにも、もちろん不条理なことがたくさんあると思うが、その不条理の質が違うみたいだ。 彼らの世界は、基本的に平等という原理が根底にあり、そこから個人の努力で差が出ているような気がする。ところが日本は不平等という原理が根底にあり、その上に平等という仮面を被っていて、努力しても絶対変わらない不平等がある。だからアメリカには夢があるが、日本には夢がない。この違いは人間の生きがいの問題において決定的なもので、結局、この国には、まともな人間はみんないなくなってしまうことになると、わしは確信した」恭子の話しを聞いたご老体は、憂鬱な表情で言った。 これは日本という国が二千五百年前頃から、それまで狩猟中心で生活していた縄文人から、稲作農耕中心の弥生人に変わってからの長い垢だ。そう簡単にこの垢を取り除くことは出来ない。 欧米社会は、今でも狩猟民族の精神が息づいている。 原爆を落とされての敗戦が、この国の変貌の最大のチャンスだったが、この悲惨な体験を活かしきれなかったのは、悔やんでも悔やみきれない事態になる気配が、この国にはある。 あのホロコーストを味わったユダヤ民族と同じ経験を今度は日本人が味わう羽目になりそうだと、思うと 「何かしなければならない。しかし一体何ができるんだろう」と思う五郎だが、迷路に入ってしまうだけだった。 |