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第七十一章 青年ホームレス激増 ご老体と五郎がラスベガスにホームレス視察旅行に行ってから、2年が経った。 その間に日本の国は大きく変化した。 老人の活躍する話題が多くなり、高齢化社会の問題として深刻に論議されていた、老人の犯罪増加は、若者の犯罪増加問題にすり替わっていた。 アメリカのホームレスと出会ってから、ご老体はすっかりホームレスに戻る気がなくなったらしい。 あれ以来、上原の道場に住みついてしまったので、他の連中も渋谷の寝床を引き払って上原に移った。 五郎は、その間に一度家に戻ってみた。 さすがに驚いた様子だったが、今までいろいろな国で苦労しながら、大商社の役員にまでなった五郎に、ご苦労さまのつもりで、そっと好きなようにしてあげようと、家族で話し合ったらしい。五郎のことだから、いつか必ず戻ってくると信じていてくれたのだ。 あの時、ホームレスになったことは会社から聞かされていた。例の中村や岩下が教えたのだ。 しかし、家族は決して渋谷の寝床には行かなかった。ただじっと待つことにしたのだ。 その話を聞かされた五郎は、中村や烏丸会長が家族から捨てられた話をした。 本当にそんなことがあるのかと信じられない様子だった。 「俺の家族は、まともだったようだ」と思うと、何か感謝の気持ちが湧いてきて、みんなに「勝手なことをしてすまなかった。決して家にいるのが嫌になって出て行ったのではない。それまでの自分の生きざまに疑問を感じて、独りで考えてみたかったのだ」 と言ったら、「そんなことは分かっているわ」と女房が言ってくれて、気が楽になった。 「また、しばらくは帰って来ないが、今度は、ホームレスに戻るのではなく、そこから新しい生き甲斐を見つけることができたような気がする。その生き甲斐に専念してみたいと思うからで、もう家出ではない。居場所もきっちり教えておくよ」と言ったら、家族はみんな喜んで、赤飯を炊いて送別会をしてくれたのだ。 そのとき、五郎は人生の無常観と共に、その空しさの中にある、蟻のような人間の存在にも魂があり、その魂のゆらぎが、人と人との間の絆でもある、決してただの空虚さとは違うものだという実感が湧いてきて、やっと、70近くになって、人生の妙が分かったような気がして、生きていてよかったと思うのだった。 そして上原の道場に戻ると、ご老体が先頭をきって、新しい道場づくりをしていて活気に満ちていた。 「立原さん、新しい道場は、今までとどこが違うのですか」と聞いてみた五郎に、ご老体は今までの雰囲気とはまったく違った、まるで若者がしゃべっているような感じで話した。 「山本君、俺は生まれ変わったよ。精神は20才代の青年だ。夢と理想に燃えて、生き生きした気持ちだ。今、巷では青年のホームレスが急増しているらしい。職に就けずに、家にもいることが出来ず、ホームレスになるようだ。そして逆に、俺たちのようにホームレスになって世の中から、隔絶されて生きていた老人連中が、今は新しい仕事を得て、どんどんホームレスから足を洗って行っている。完全に若者と老人の逆転現象が2,3年前から起きている。まともな若者は、これではいけないという危機感を持っている。彼らを発掘して、もう一度、人間勉強の基礎を教えてやるんだ。それが新しい道場だ」 会社を退任してから、胸に痞えていたものが、何か分からなかったが、その痞えが今のご老体の話しでとれたようだった。 「今度は我々が、若者のために何かをしてやらなければならないですね」と五郎は言ったとき、何十年ぶりかで味わった爽快感だった。 |