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第七十七章 サラリーマン挽歌 数年前までは、外資による日本企業の買収は、ほとんどアメリカ企業によるものであった。 ところが、最近になって中国の公司が、香港やシンガポールの華僑と共同で、日本の企業を買収しだした。 特に注目を浴びたのは、シェアートップのトーメイ自動車が中国系企業に買収されたのだ。 日本一の売上と利益を誇っていたトーメイ自動車が、どうして買収されるのか、それは、仮想金融取引き、専門用語で言えば、派生金融商品(デリバティブ)取引で世界に流れているキャッシュフローは実体キャッシュフローの一万倍に膨れ上がっているためである。 世界の実体キャッシュフローは円貨にすると約7000兆円だと言われている。その一万倍のマネーがデリバティブ取引されている。トーメイ自動車の資本金は1000億円で20億株の株券を発行している。株価の時価が1株5500円であるから、20億株の時価総額は11兆円だ。11兆円のデリバティブ取引は世界の総デリバティブ取引の0.000015%である。こんな取引などいとも簡単に為される。 香港華僑が中心になってトーメイ自動車の株式の51%を取得してしまったのである。 トーメイ自動車は売上14兆円、経常利益8000億円を誇る日本一の企業だったし、世界の大企業ランクでもトップ10に入る会社だったのが、いとも簡単に乗っ取られた。もともと同族会社であったために過小資本であったところをつかれたのだ。 どこかに、自分たち一族の会社であるという執着があったのが仇になったのである。 隣の国の韓国が必死に日本の自動車産業に追いつき追い越そうとして、この40年間、かつての戦後の日本と同じように、国を上げて努力しても、トーメイ自動車の10分の1の企業に育てるのがせい一杯であったのを、香港華僑がいとも簡単にトーメイ自動車を自分のものにしてしまったのである。 株式会社という資本主義の申し子が、高度情報化社会の誕生と共に産まれ落ちたマネーゲームのデリバティブという化け物によって蹂躪される世界になってしまった。 これこそが、資本主義の終焉を示す典型的現象である。資本を持つ者よりも、価値ある情報を持つ者が利益を享受する時代に入ったのである。 日本のかつての大企業、特に製造業の会社が中国のターゲットにされている。その理由は、日本企業が15年前ぐらいから中国に生産拠点を移し、自前の工場を乱造したからだ。その工場が今や中国の最先端をいく工場になっている。その親会社を乗っ取れば、自動的に、中国にある工場も自分たちのものになるという計算をしているのである。 そして、かつては中国の工場の管理職は、全員日本人であったが、今度は、日本の企業を乗っ取り、中国人の管理職を日本の本社にまで送り込んできたのである。 知らぬ間に外国の会社になってしまい、しかも株式会社とはいえ実質ワンオーナーの会社だから、株主総会も今までのような形はとらず、決算報告書を他の株主に送るだけのものになってしまった。 「どうして、こんな事態にまでなってしまったのでしょうね」と五郎が聞くと、 「それは、金融能力の問題だ」とご老体が答えたので、 「それなら、日本もデリバティブで対抗したらいいじゃないですか」と五郎が反論した。 「そのデリバティブを代表とするマネーゲームに対するマインドが日本人には乏しいのが原因だ。ラスベガスに行ったとき、カジノで大博打をはっていたのは、中国人が一番多かった、そしてユダヤ系アメリカ人を筆頭にした欧米の金持ち連中、その中に、韓国人もいただろう。韓国人は人種的には日本人と同じルーツの者が多いのに、金に対するマインドは全然違う。一方日本人はカジノでは、見学ばかりで、仮に博打をやっても、実にせこい。こんなマインドでマネーゲームに勝てるはずがない。マネーゲームも結局博打だ。博打の原則は確率ゲームだから、とことんはり続ける資本力と度胸が要る。日本人には、資本力はあっても度胸がない。やはり、島国で農耕民族のDNAが染みついているのだよ。21世紀の世界経済は、ギャンブル経済になっていく。日本人のメンタリティーでは出番はないよ」 ご老体の話しは説得力があった。 「それでは、日本人の大半を占める、大企業のサラリーマンは、これからどうなるんでしょうかね、日本の運命は彼ら次第になるほど多いんですから」とサラリーマン経験者だけに一番気になるところだった。 「まあ、大半は、退職金も企業年金も貰えずに首になるだろう。日本国民総ホームレスになる可能性だってある。実質、国家崩壊だろうね」と恐ろしいことをご老体は本気で言った。 |