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一期一会 未(ひつじ)二十七の日(その一) 旅はただ 浮きものなるに ふる里の 空にかへるを いとうはかなさ 旅とは、人生のことであります。 人生は浮きもの、即ち漂う雲なのです。 しかし、あなたがやって来たのは真っ青な空からであり、またその空に帰って行くのですが、雲が自分であり、自分の人生であると思っているあなたは、やって来た空に帰るのを嫌がって、雲に執着しているのは実に愚かなことだと、一休さんは言っておられるのです。 人間というものは、実に愚かな生き物のようです。 生きるということは、漂う雲のようであれば、つまり苦悩に満ちた一生であれば、余計真っ青な空に回帰するのを求めるはずであるのが、ますます真っ黒な雲の中に埋没していく人間。 結局の処、人間という生き物は、完全に精神障害を起こしていると言っていいでしょう。 精神障害を起こしている人間がいるのではありません。 人間とは精神障害者であると言っているのであります。 我々が、精神障害者だと言っている人たちは、我々よりも少しだけ精神障害が強く起こっているだけで、我々が正常であるのでは決してありません。 本来の自分がやって来て、また回帰するのが、真っ青で何の苦悩もない空であることを理解しても、人間は苦悩の雲と同化することを選ぶという精神の自殺行為をしでかす、愚かな、異常な程の臆病な生き物であるようです。 どうやら、人間というものは、苦悩に満ちた人生であればあるほど、ますます苦悩の中に陥っていく習癖を持っているようです。 人間の行動パターンに一番似ているのがネズミです。 だから、人体実験する前に、ネズミをモルモットにして実験をするのです。 何度も紹介していますが、わたしが書いたネズミの詩を下に紹介しておきます。 威風堂々と先頭を切って走っているどぶネズミも、実は自分が、今、何をしているのか、解っていないのであります。 最後を走っているどぶネズミも解っていないのですが、前を走るどぶネズミの失敗体験を見ることが出来る故、谷底に落ちなくて済む。 この世的成功をすることは、先頭を切って谷底に落ちて行くことなのです。 どぶネズミの暴走 いちばん うしろから ついていく どぶネズミが 前のに 訊ねた 一体どこに向かって走っているのだろう 前のどぶネズミは 前が 走っているから ただ ついて行くだけ と言った だけど、気になるので その前の どぶネズミに 訊ねた 一体どこに向かって走っているのだろう その前のどぶネズミも おなじ 返事をしたが 気になった そして 前のどぶネズミに 訊ねた 一体どこに向かって走っているのだろう とうとう 一番前のどぶネズミのところまできた 一体どこに向かって走っているのだろう 先頭を走るどぶネズミは だれにも 訊ねることができない うしろからついてくるから ただ 走っているだけ と答えた その答えが 一番うしろのどぶネズミに 伝わった そりゃあー ないだろう と言った 途端 前の どぶネズミたちは 断崖から まっさかさま ただ 一匹 そのどぶネズミは 呆然と立ちつくして ああ 一番うしろでよかった 一期一会 未(ひつじ)二十七の日(その二) 例の「オカマ野郎」の元専務さんとのエピソードをもう一つ紹介いたしましょう。 このオカマ専務さんは、元々は商社マンから転身され、外様でありながら見事、専務の地位まで昇りつめたやり手−こういうのは、仕事のやり手ではなく、オカマのやられ手、と言った方がいいでしょうが−でした。 従って、大手総合商社に憧れと、一種のコンプレックスを持っているのです。 丸紅という商社と付き合いの多かった、わたしが勤めていた会社の貿易本部長をしておった、このオカマ専務は丸紅の中山とかいった副社長に媚をしょっちゅう売っておったのを、わたしが木っ端微塵にしたお話であります。 わたしの部門は、丸紅の東京と取り引きをしておったのですが、これがまたまた男芸者揃いで、まるで仕事が出来ない。 そこで、わたしと上司の部長と相談して、丸紅の大阪の部長さんで、もう亡くなられましたが、昔の本当のやり手の商社マンで加納さんという方の部署で、ソ連向けの新しい商売をしようという話をしたのです。 ところが東京の丸紅の部長で、たしか(禿)森とか言った部長が、中山副社長というおっさんに直訴をしたのです。 中山丸紅副社長は、日頃媚を売ってくるオカマ専務に抗議をしたのは当然でしょう。 オカマ専務は激怒して、わたしがアメリカへ出張している間に、わたしの上司の部長を呼びつけ、専務命令で、丸紅東京と新しい商売の話し合いをするよう通達を出したのです。 わたしが帰国しますと、その部長は既に加納さんに事情を言って、「話はなかったことにしてくれ」と断りに行っていたのです。 わたしの帰国を待っていた、丸紅大阪の加納さんは、ことの経緯を直に連絡してこられ、わたしは事情を知ったのです。 わたしは、上司の部長を責めても仕方ないと思い、オカマ専務の部屋のドアをノックしました。 「君は、商売道義を知らないのか?」 いつものオカマと違って、理屈で対抗してくるのです。 わたしも、それではと理屈で対抗したのです。 「それは誠に申し訳ありませんでした。今まで取り引きしていた東京の丸紅さんに先に声を掛けなかったことは、商売道義に反します。わたしが明日、東京の丸紅さんに謝罪をしに行ってきます」 オカマ専務、目をくるくるさせながら、顔は笑っておるのです。 余程、わたしの殊勝な態度に、驚きと歓喜の気持ちであったのでしょうか、わたしの目の前で、中山副社長に電話をして事情を説明しておるのです。 翌日、東京の丸紅を訪問したわたしを、禿森部長、・・山本次長、ブタマン−これはわたしがつけたあだ名ですが−瀬川課長ほか、ずらっと待ち受けていて、中山副社長の部屋を借りて、わたしを迎えたのです。 冒頭で、わたしは彼らに、商売道義に反したことを謝罪しました。 そして、最後に、「ソ連の新しい商売の件で、また機会があれば、今度は、丸紅東京さんにお願いしに来ますので、その節はよろしく」 と言って席を立とうとしたのです。 「ちょっと新田さん、待ってください。わたしたちは、ソ連の案件で、あなたと今後の相談をするようにと、中山副社長から指示を受けているのですが・・・」 禿森が言うのです。 「いえ、すべてを白紙に戻しました。どこの商社とするかは、これから、わたしが検討に入ります。もし丸紅さんとすると決めたら、あなたのところへ相談に伺います。それでは失礼します」 わたしは、すぐに帰阪しました。 翌朝、出社しますと、例のオカマ野郎が待ち受けておるのです。 「新田君。君は僕の顔に、また泥を塗ってくれたね!」 人間やはり受けた心の傷はトラウマとして残っているようで、無意識の内に、「また泥を塗った」と言っておるのです。 気の毒に、余程中国の件で腸が煮え返る思いをしたのでしょう。 「どうしてですか?わたしが何かしましたか?」 淡々と言うわたしに、オカマ野郎は身の危険を感じたのか、トーンダウンしているのです。 「君はソ連の話し合いをしに東京に行くと言ったじゃないですか?」 何と、平社員のわたしに専務さんが敬語を使っておるのです。 余程、不気味だったのでしょうか。 「いいえ、わたしは商売道義に反したことを、お詫びに行っただけです。これからのことは、担当責任者として慎重に検討すると言って帰ってきたのですが、どこかおかしいでしょうか?」 わたしの言っていることが、理解できないのです。 「それは、どういう意味ですか?」・・・・オカマ野郎 「こういった大企業の組織では、決済権は専務である、あなたが持っておられますが、いちいち、どこの会社に新しい商売を持ち込むかを決めるのは担当の権限であって、あなたの権限ではありません。そこまで口出ししたら、担当など不要で、あなたがすべての業務をしなければならないことになる。そんなことは不可能です。従って、わたしの権限内のことに二度と、口出しは控えて頂きたい。よろしいですか?」・・・・・わたし 豆鉄砲を食らったオカマ鳩のような顔をしたおっさんが、独り淋しく、大きな専務室で頭を垂れて座っておりました。 わたしは、足でドアを蹴って出て行きました。 「ドカン!」 |