第十一章 鼠と溝鼠

急ぎ働きだけは 絶対にやめなければ ならない

ヨシ吉はそう思った

こんど 急ぎ働きをすれば 鬼のヘイ吉は 二度と 目こぼしをしてくれない

もちろん 本筋の 殺さず 姦さず 貧乏から盗まず の掟といっても 盗みには変わりない

鬼のヘイ吉は 盗み取り締まり役の長官だから いくら本筋のお務めでも容赦しない

ヨシ吉は 一度 鬼のヘイ吉に会ってみようと思った

考えてみれば ねずみはたくさん この世にいるけれど 盗み稼業をしているのはどぶねずみだけだ

鬼のヘイ吉も 大棚の商いをしているのも みんな 同じねずみだ

どうして どぶねずみだけが 盗み稼業をしなければならないのか

ヨシ吉は 自分の生立ちを考えてみた

そう言えば 自分の親ねずみは 身奇麗なねずみであったし 自分も小奇麗だった

結局 親ねずみが 商いに失敗してから おかしくなった

ねずみ一家は 繁殖能力がすさまじい

一家を養うのは 大変な 甲斐性が要る

すぐに 大家族になるから どうしても経済問題が一番の課題になってくる

ねずみの中で どぶねずみの数が圧倒的に多いのは 経済問題が原因だ

このことを ヨシ吉は鬼のヘイ吉に分かってもらいたかった

人間の社会でも 貧しさから 悪事に走る場合がほとんどだ

極めて少ないが 貧しくても 頭が良ければ 何とか悪事に走らなくても済む

ねずみという 繁殖能力の旺盛な動物の宿命なのか 貧乏という問題は

ヨシ吉も もともとは どぶねずみではなかっただけに この世界から足を洗いたかった

ところが 盗人稼業の親分に 図らずもなってしまった

ヨシ吉は ねずみ社会のはきだめである どぶねずみ問題に真剣に取り組もうと思った

そのためには 鬼のヘイ吉と話し合うしかなかった

下手すれば 自分の首が飛ぶ ヨシ吉は覚悟を決めた