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第十四章 あほう烏(カラス)のトシ吉 あほう烏のトシ吉は とっぽいところがあるが 気のいいねずみだ だから あほう烏のような 脇仕事が出来る あほう烏という仕事は どぶねずみたちの あまりにも貧しさが 親子一家食っていけずに 借金づけになって 結局 娘ねずみを 借金のかたに女朗に引き渡される それを 何とかして 女郎部屋に行かずに済むように 良心的な 大棚の旦那衆や お侍に声をかけて 身売りをさせて 稼がせる そして仲介料を稼ぐご法度の仕事だ だが トシ吉は 仲介料をせっせと貯めては その娘たちが晴れて借金を返せた暁には どこか いいねずみの独りもんを 探してきては 夫婦にさせ その生活資金として 貯めてきた金を 娘に祝儀としてやっていた だから そういった 貧しいどぶねずみの家族からは 仏のトシ吉とも言われていた 美人局のカン吉にしても そうだった 貸し座敷の商いをするのも それで稼いだ金は みんな 貧しいどぶねずみに恵んでいた こういった陰で徳を積む奴は 表振りは 精彩が薄い エリートぶった奴ほど 実は これほど あさましいどぶねずみは いない 自分の家族をも 欺いて生きていることが 自分で気がついていないのだ 一番 愚かなどぶねずみだ あほうな奴は ねずみ生を 心豊かに暮らせるが 愚かな奴は結局ねずみ生の失敗者だ だが 自分では 偉い賢いと思っている これほど あさましい 醜い奴は いない 人間の世界でも 同じらしいと 鬼のヘイ吉の家の 人間がよく言っていたとヨシ吉は聞いたことがあったことを思い出した こういった あさましい 醜い エリートぶった 愚かもんの 特徴は まずあまり喋らない 喋るのが 損だと思っている 確かに 口は災いの元 と言われているので 守っているのだ そこが 愚かなところだ 意志の疎通は 口から発する言葉によってのものは 全体の二割程度だ ほとんどは 体から かもし出す雰囲気で 相手に分かるものだ エリートぶった奴は 口数は少なく 喋れば 実行もようしないような 理屈ばっかり言っておる だが 態度は 自分ほど賢いもんはいない という態度があからさまに出ておる こんな奴は いざとなれば 糞の役にも立たない そのくせ お頭や 幹部の連中から ケツを貸せと言われれば 平気で貸す どぶねずみ 人間 その他の 生き物の中でも 最も低劣な生き物だ 女郎は 借金のために仕方なく 身を売る エリート(これからは 大穴野郎 と呼ぶことにする)ぶった奴は ただでケツを貸す 死んだミノ吉は この大穴野郎が大好きだ コメ吉も もとは 大穴野郎だ マス吉も そうだった ヨシ吉は ミノ吉にケツだけは貸さなかった 一番の大穴野郎は イワ吉というどぶねずみだ このイワ吉は 変ったどぶねずみだ 風体は 猫背でいかにもねずみというより陰険猫に間違われる ミノ吉は このイワ吉を ケツを提供させるだけでなく その風体をフルに利用しまくった イワ吉も 利用されていることは 百も承知で 逆にミノ吉を利用して幹部にのし上がった だからミノ吉が死んだらすぐに 次のケツの提供者を探す どぶねずみ一家も ミノ吉の時代は 大世帯で下っ端が大勢いたから 下っ端にへそを曲げられたら お努めが出来ない そこで下っ端同士が 講をつくった 今でいう組合だ その講のトップは 頭も悪く お努めの能力もからっきし駄目だが 下っ端を取り仕切っているから お頭 他幹部連は無視できない存在だった 昔 イワ吉は その講のトップの世話役をしていたときがあった その時の イワ吉のケツ奉仕は今でも語り草になるほどのものだった おい イワ ちょっとケツを貸せ と講の幹部連に言われると 相手が二人でも三人でも 対応する だから 講の幹部からしたら 大切なおもちゃだ そして 一家の幹部にまでなった だから一家きっての 特大穴野郎だ 他にも 特大穴野郎に ブン吉がいる こいつは 両刀使いだ ケツも貸すし 一家のメスにも手を出す 小ずるさにかけては天下一品だ もっと ひどいのがいた ウダ吉だ こいつは もう根性の悪さにかけては 右に出るものはいない たまたま 鍵職人だったから お努めの前の 蔵の合い鍵をつくる職人だが 今は老いた ケイ吉と血のつながりがあることを利用して のし上がった野郎だ こいつの 根性の悪さは 度が過ぎている だからその根性が顔にも表われていていつも口が曲がっている 上には へいこらして 下には 傲慢そのものだ ミノ吉が 幹部として抜擢したどぶねずみは ほとんど ろくなやつはいない 多分 まっとうなねずみ社会なら 末端のレベルのねずみだ こういった とんでもない どぶねずみが幹部でいた一家だけに 鬼のヘイ吉のような 正統派の実力者にかかったら ひとたまりもなく ねじ伏せられてしまう ヨシ吉は やっと 目が覚めた思いだった とにかく あほう烏の一派を引き上げて まっとうな 正業に二年以内に変えないと 鬼のヘイ吉も 許してくれない ヨシ吉は身が引き締まる思いだったが すがすがしくもあった |