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第十六章 決死のトシ吉 トシ吉は 鬼のヘイ吉に会いに盗み取り締まり役宅の門の前に立った トシ吉の十八番の 供物攻めだ 奥方に気に入られるのが 一番手っ取り早い 奥方の好物のうぐいす羊羹を しこたま持って行った ところが そこがどぶねずみの悲しい習性だ ヨシ吉一家の若頭というので ヘイ吉も会ってみようと思って 通した 最初は 親分のヨシ吉がいろいろと お世話になっているとか 意味のない話しをしていると 奥方が お茶を持って座敷に入ってきた そこへ トシ吉が うぐいす羊羹を 差し出した 突然 奥方の おひさが お茶を引き下げて さっさと座敷を去って行った あっけにとられた トシ吉は ヘイ吉に笑いながら 言われた てめえ なんて名だ へい あほう烏のトシ吉と いわれてやす ますます ヘイ吉は 大笑いして言った てめえ あほう烏をやってんのか あほう烏をやったら てめえだけじゃなく その身売りをした 娘まで おか場所に やられるんだぜ この俺に 本当にてめえは あほう烏だ 腰を抜かして ひっくり返るトシ吉に ヘイ吉は言った あほう烏はご法度だが その心根は 俺も よく分かるから 聞いていないことにしてやる それよりも なんでえ 俺に何か頼みごとでもあんのかよう それとも ヨシ吉の使いで来たのかい いえ とんでもねえ お頭は 何にも ご存知ねえんです あっしが勝手に来やした それで とヘイ吉が きりっと 恐ろしい目に変った トシ吉は口を震わせながら へい 実は このめえ あっしは ヨシ吉親分から 若頭を 仰せつかったんですが 今まで お努めもろくに出来ない 出来損ないと言われてきたんですが もう 盗人稼業はやめて まっとうな 稼業に変りやしょうと ヨシ吉親分に意見を 親分に殴り殺される覚悟で 言ったんで ほう おめえ そんなことを ヨシ吉に意見したのかい てえしたもんだ そしたら? へい そしたら あっしを 若頭になすったんで うん なかなか いい話しじゃねえか それで 俺に何をして欲しいんだい へい 一家には まだ急ぎ働きを したがる奴等が大勢いやして そいつらが なかなか親分の言うことを聞かないんで 親分が困ってなさるんです ふうん それで その悪を俺に売りに来たのかい へい お察しの通りで よし 分かった 俺から ヨシ吉を呼び出して 相談してみよう どうか あっしが来たことは ご内聞に 分かってるよう トシ吉が帰ったあと ヘイ吉は ヨシ吉一家が変っていくのを知って ひとり喜んだ |