第五章 苦難の一年

ヨシ吉が二代目の親分になってからは、お務めがめっきり減ってしまった

そりゃそうだ 急ぎ働きなら計画も要らないから すぐお務めできる

しかし まともな引き込み強盗なら 周到な計画と実行に時間がかかる

まず座頭のトモ吉と引き込み役のめすのオマンに狙いの大棚にクサビを打ち込む

それから 盗人宿を手に入れ もう齢も90近くなったケイ吉に商売をそこでさせる

そしてすべての用意が整って初めて お務めに入る

だから23年はかかる

今から10年以上前にミノ吉がケイ吉から盗人稼業の手ほどきを受けたとき

ケイ吉は真面目な性分なのでミノ吉にまともな お務めを教えて ミノ吉も従っていた

しかし ケイ吉が老けて力が無くなってくると ミノ吉は自分流に変えていった

ミノ吉は 複雑な性格で 典型的な内弁慶タイプで 疑い深い

だから自分の傍には 気の置ける子ねずみしか置かない

ねずみ見知りはするし それでいて権力欲は旺盛だ

ケイ吉から力を削ぎ落とすときにも 他の組の 仕事ねずみに こそっと頼んだのだ

しかし 気が小さいから 今までケイ吉の面倒は見てきたのだ

しかし 急ぎ働きに手を染め始めた頃から ケイ吉の出番はなくなっていた

ケイ吉の世話を永い間やっていたオフジと今では船宿の商いをしている

急ぎ働きもすると言って 妥協した二代目のお披露めの時以来 お務めは一回もない

子ねずみ連中の不満は頂点に達していた

そこへ 盗み取り締まりの長官である鬼のヘイ吉が密偵を使って ヨシ吉一家に狙いを定めていた

ますます 急ぎ働きは出来なくなって 一家の収まりを出来なくなったヨシ吉だった

まさに 内憂外患の一家を笑いながら見ているコメ吉に 言い寄る老ねずみがいた

マサ吉と言い 昔から 小汚い手ばかり使う小悪党だ

コメ吉どん 今をおいて ヨシ吉を葬る機会は ございませんですぜ

はやいとこ若い子ねずみ連中をそそのかして やってしまんなせ

コメ吉はかつて急ぎ働きの際に 姦した飯盛り女から 質の悪い病いをもらっていた

この病いは 恐ろしくて 一生治らないだけでなく 頭がだんだんおかしくなってくる

コメ吉は もうまともな判断は出来なくなっていた

コメ吉にとっては先輩格のマサ吉からの誘いなので無下に断れずに まんまと乗った

二・三匹の子ねずみを使って ヨシ吉の寝床を襲わせた

ヨシ吉は こういったことには頭が鋭くまわる

だから 人間からの誘いだった 猫いらずのご馳走に手をつけず 結局ミノ吉が頓死した

この情報を察知していたヨシ吉は10匹の子ねずみを見張り番に置いていた

しかも その情報の提供者が 二股膏薬が得意の あのマサ吉だ

そして三匹の仕事ねずみが襲ってきた

あっという間に取り押さえられ 口を割らす拷問にかけられた

彼らにとって一番の恐ろしい拷問は断種の刑だ

仕事ねずみは震え上がって すぐ口を割った

コメ吉とマサ吉が 毎度の姦す夢の中でよだれを垂らしている寝床を ヨシ吉に襲われた

そしてマス吉立ち合いの下 コメ吉とマサ吉は断種の刑を執行された

ねずみ一倍 生殖力旺盛のコメ吉とマサ吉にとっては生き地獄だ

何とか この事件で 子ねずみ連中の不満も静まって ほっとしたヨシ吉だった

後顧の憂いがなくなったヨシ吉だったが あとはいかに お務めを始めるかに想いを馳せるのだった