第八章 密偵シン吉

鬼のヘイ吉がヨシ吉一家に送り込んだ密偵はシン吉という

シン吉はむかし 長崎を拠点とした異国人の盗人一家に身を寄せていた

そして長崎の盗み取り締まりの長官をしていた鬼のヘイ吉の親父に捕まった

シン吉の仕事は 情報集めと 引き込みとのつなぎだった

長崎中の大棚の蔵に忍び込み どれだけ豊かな蔵であるかを一家に知らせる

表稼業は瓦板だ 情報集めには格好の仕事だ

ヘイ吉の親父の密偵になることで 罪は お構いなしとなって一家に戻って情報を流していた

シン吉もメス好きだ いつも長崎の女郎通いをしていておなべという馴染みができた

このおなべが じつは 母親のおまつ以来 異国人の盗人一家のお抱え慰め女郎で

おまつが他の一家の子ねずみと情を交わしたことがばれて 殺されそうになった

そのとき 一生 異国人一家の犬として働くことを約束させられた

そのおまつが異国人との間に産み落としたのが おなべだ

だから おなべは 異国人一家と通じている

それを知らずにシン吉は自分が密偵だということを おなべに漏らした

おなべは おまつと違って冷淡で 強欲で その上 頭が悪い

すぐに異国人一家にばらされて シン吉は捕まった

口は災いのもと その言葉の通り シン吉は舌を切り落とされた

不憫に思った ヘイ吉の親父はシン吉を引きとって面倒をみた

それ以来 ヘイ吉に引き継がれ 密偵をやっている

しゃべることが出来ないのも この仕事には便利だ

しゃべって失敗することがない それが逆に信用になる

ねずみの一生なんて 分からないものだ

今回のシン吉の仕事は ヨシ吉一家に入り込むことだ

今の盗人一族には むかしの知り合いは ほとんどいない 若い子ねずみばかりだ

シン吉の情報網は瓦板をやっていただけに あっちこっちに張り巡らされている

いよいよ ヨシ吉一家にもぐり込みだ

間抜けな 子ねずみ連中がまだ わんさと一家にいる

その間抜けな子ねずみにうまく誘いをかけて まんまと一家に入り込んだ

ヨシ吉も お務め経験が浅いだけに 盗人連中の情報がない

そのまま 疑いもせずに シン吉を仲間にいれた

これがヨシ吉のアキレス腱だ 思慮深いのだが おだてに弱い

特にじゃれつかれるのに一番弱い すぐ信じてしまう

おだては言葉だから警戒するが じゃれつかれるのは肌と肌が合う

これにヨシ吉は弱い 子供の頃に親の愛を受けたことがないからだ

またヨシ吉に 危機がやってきた