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第十三章 アジアの高峰 清水山を離れた冬子は春義爺・末婆の住む新田村に立ち寄った。 彼女の目差す処は別にある。 2年前とがらっと変わっている新田村の風景を微妙に察知した彼女は、『いよいよ来るべき時がやってきた!』と感じた。 「おじいちゃん!おばあちゃん!」 一郎が殺された2年前の夜のことが思い出される。 「おじいちゃん!ちょっと出かけてくる!」 土間で作業をしていた春義爺の横を駆け抜け、まるで東大寺大門の阿像のような形相で叫ぶように言った彼女が立っていた薄暗い格子戸の前に再び立ち、彼らに言う冬子だった。 「おや!国常立命(クニトコタチノミコト)さんが、又降りて来なさったか!」 末婆が32年振りの台詞を吐いた。 「国津神さんの時代に入って、あの方も忙しくなってきたのじゃなあ!」 春義爺も32年振りの台詞を吐いた。 2001年4月1日。 冬子の父・鬼神四郎に丑寅の金神が憑依した日である。 2033年4月1日。 丑寅の金神が鬼神四郎の子・冬子に憑依した日である。 「金神さんや!この子は女の子じゃが、大丈夫かのう?」 末婆の問いかけに冬子の肉体を借りた国常立命(クニトコタチノミコト)が32年振りに人間の言葉を発した。 「国津神と天津神が交互に治めるのが、この国のはじまりからの為来である。 国が順調に治まっている間は天津神が指導し、国が乱れると国津神が世直しをするのである。 天津神の指導者が天常立命(アマトコタチノミコト)であり、国津神の指導者が、この国常立命(クニトコタチノミコト)であるが、本来は同じ神であり、その名を天御中主命(アメノミナカヌシュノミコト)と呼ぶ。 はじめに天常立命(アマトコタチノミコト)という名の下で、天津神の指導者が世を治めた。 天照大神(アマテラスオオミカミ)が女御(おなご)であるわけがここにある。 世が乱れてくると、天津神では世を治められなくなり、国津神に役目が移され、天常立命(アマトコタチノミコト)が国常立命(クニトコタチノミコト)になり、天照大神(アマテラスオオミカミ)が須佐之男命(スサノオノミコト)となり、世直しが為された。 国津神も天津神も実は同じ神であり、天照大神(アマテラスオオミカミ)も須佐之男命(スサノオノミコト)も同じ人間である。 今から219年前に、天照大神(アマテラスオオミカミ)が須佐之男命(スサノオノミコト)になり、天常立命(アマトコタチノミコト)の指導の下に世直しがはじまったが、これが宗教に走った。 わしはこの数百年間に数人の女御(おなご)の口を借りて世直しを訴えてきたが甲斐もなく、仕方なく鬼神四郎の肉体を借りて直接の世直しをやった。しかし、女御(おなご)に世直しさせるのが本来の姿なのだ。 女御(おなご)が世の中を治めるのが本来の姿なのだ。 今から195年前に、最初の女御(おなご)がわしの指導を受けはじめたが、これも世直しよりも宗教に走った。 その女御(おなご)は熱心な仏教の信者だったからだ。 天津神に世を治めることを任せているが、数百年も経つと必ず乱れるのが世の常である。 そこで今から193年前に、再び天照大神(アマテラスオオミカミ)が須佐之男命(スサノオノミコト)になり、天常立命(アマトコタチノミコト)の指導の下に世直しがはじまったが、これもまた宗教に走った。 そこでわしは考えて、今から141年前に、二番目の女御(おなご)を指導し、それから6年後に、その女御(おなご)の娘婿となった天照大神(アマテラスオオミカミ)から須佐之男命(スサノオノミコト)になった男御(おのご)に世直しと再生を任せた。 この男御(おのご)はよく頑張ったが、天津神の子孫から迫害を受けて、志半ばで憤死してしまった。 わしの怒りは最高潮に達し、自ら世直しをするために、鬼神四郎の肉体を借りたのである。 ところが、この国には東の臍と西の臍が繋がっており、東の臍だけを世直ししても、西の臍が乱れると東の臍も乱れるという複雑な事情があることを、わしは失念していた。 西の臍がいま乱れに乱れている。 その影響を受けて、折角の東の臍までもが乱れ切っている。 東の臍の乱れを、鬼神四郎は糺した。 西の臍の乱れを、鬼神冬子がこれから糺すのである」 アインシュタインが1922年に京都で演説をした。 「世界の未来は進むだけ進み、 其の間、幾度か争いは繰り返されて、 最後の戦いに疲れる時がくる。 其の時、人類はまことの平和を求めて、 世界的な盟主を崇めねばならない。 この世界の盟主たるものは、 武力や金力ではなく、 あらゆる国の歴史を抜き超えた、 最も古く、また、 最も尊い家柄でなくてはならぬ。 世界の文化はアジアに始まって、 アジアに帰る。 それはアジアの高峰、 日本に立ち戻らねばならない。 われわれは神に感謝する。 我々に日本という尊い国をつくっておいてくれたことを・・・」 アジアの高峰こそ東の臍である。 西の臍とは何処のことであろうか。 末婆が金神に訊いてみたが、金神からの応答はない。 宇宙はマクロ宇宙からミクロ宇宙までを貫く球体の円運動であるが、厳密には真球体の真円運動ではなく、楕円球体の楕円運動をしている。 真球体なら中心は一つであり、真円運動にも中心は一つだが、楕円球体なら中心は二つあり、楕円運動にも中心は二つある。 地球体も実は真球体ではなく楕円球体である故に中心は二つある。 地球体の運動量ベクトルは遠心力方向、つまり、東西方向にあり、角運動量ベクトルは地軸方向、つまり、南北極方向にある。 宇宙は三次元空間でありながら、宇宙運動は二次元(平面)運動に縛られている。 円運動する際の運動量ベクトルと角運動量ベクトルの積が必ずゼロ・ベクトルになるからだ。 星雲の形も、惑星群の動きも、宇宙の姿と運動が円盤型をしている理由である。 運動量ベクトルは東西方向にあり、東西に二つの中心がある。 それが東の臍と西の臍である。 国常立命(クニトコタチノミコト)が再び冬子の口を借りた。 「わしは東の臍しか知らぬ。 西の臍を知っている者は東の臍のことを知らぬ。 それはこの者が自力で探し出すであろう」 末婆は冬子の姿をまじまじと見て呟いた。 『この子はこれから遠い旅に出かけようとしているのじゃなあ!』 春義爺が末婆に囁くように言った。 「そうじゃなあ!冬子は新しい旅に出るんじゃ!」 |