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第二章 夢の中の愛 八郎はベッドの上にいて、夢を観ているようだった。 眠っている時に見る夢は、まさにその時の現実であり、夢の中で同じ女を抱いている。 「おまえ!!ここで何をしてるんだ?」八郎はうろたえてリエに訊いた。 「やっと気がつかれたのですね。わたしは、ずっとあなたに抱かれていたのですよ。だけど夢と思っていらっしゃるようだから、気づいて欲しいと思って今まで一緒にいたのです・・・」 「ええ、それじゃ、夢の中で・・・」と言いかけた八郎に、 「あれは夢じゃなかったのですよ。本当にあなたがわたしを抱いていたのです」 八郎は驚きと喜びが交錯した不思議な気持ちでリエの話を聞いていた。 「恐怖に魘されているご様子でしたけど、わたしを抱いてから落ち着かれたようです。どんなに激しい生き方をしてきたのか、と思うと泣けてしまって、わたしの方からあなたを抱いてあげる結果になってしまったのです」 八郎はしばらく世間から姿を隠していた。 世間から距離を置いたこともあって、幸福感ではなく、自己の平和感を味わっていた。 幸福を感じた時には、既に水面下では不幸という実体が頭を擡げているのが、宇宙二元論の法則である。 平和感というのは、個人すなわち部分の感覚ではなく、全体(Totality)の感覚だから、幸福感のような短いスパンでの振れがないのが本質である。 それを感じることが出来るというのは、余程の全体意識(Totality)を持っていないとなれない心境なのだ。 利自心が残っているようでは、到底、自己の平和感は味わえない。 一般の人間は幸・不幸の感覚ばかりに執らわれてしまうが、八郎のように振れの大きい、激しい波の中を泳ぐ人生体験をすると、幸・不幸の感覚のいい加減さが身に沁みて解ってくる。 全体が幸福を感じてこそ、自己の幸福感に繋がることを知る。 一種の悟りの境地になる。 それが自己の平和感であることを知るに至る。 凡人は、自分の幸福ばかりを追いかける。 実は、個人の幸福なんて有り得ないのだ。 全体が幸福になって、初めて個人の幸福も得られるという、実にシンプルな真理を理解できないでいるのが凡人なのだ。 世界の平和は、自己の平和の集合体であり、世界の平和なくして自己の平和はなく、また自己の平和なくして世界の平和もないのである。 アメリカは正義のために戦うと言うが、実に愚かなことである。 正義とは平和を実現することなのであって、戦いによって得られた平和は、一時的な幸福感であり、勝者だけの幸福感で、その裏では敗者の恨み、反感という負のエネルギーが蓄積されていって、いつか復讐という形で新たな戦いを生んでしまう、終わりの無い行為であることを彼らは解っていない。 実に薄っぺらな世界である。 八郎は自問自答した。 『俺はアメリカ人を敵と思ってきた。しかし彼らにも家族があり、社会があり、国がある。たとえ間違っていても彼らなりの正義がある。そうすると、彼らにとっては、俺は平和を乱す極悪非道な人間と映り、恨み、復讐の想いが醸成されていく。それなら所詮鼬ごっこではないか・・・』 『お前の言う通りだ。だからお前はデビなのだ。イエスもデビなのだ』 自分が応える。 『それでは、俺は自己の平和を追いかけるべきではない』 沈黙が続いた。 『よいか、デビよ。イエスが十字架に架けられた時、神は自分を見捨てたと恨み言を言っただろう。しかしイエスは復活した。救世主というのは、そういう運命を背負って、この世に生まれて来る宿命なのだ』 八郎はなんとなく解った。 『よく解った。それが俺の運命であり、宿命であるということだな・・・』 そして八郎は沖縄の地に足を踏み入れた。 『人間にはそれぞれの使命があることも、そして普通の人間が嫌がる使命のあることも、俺がその使命を負っていることも。だから鬼神四郎の子供として生まれ、デビになったことも了解している・・・男と女は違うものだと思っていたのが間違いだったようだ。男と女は機能としては確かに違う。しかし同じ人間であることには変わりない。この食い違いが男女間の不幸を齎してきた。男と女は同じ人間であることを忘れてはならない。男女の体の機能の違いを、本質的な違いと決めつけたのは人間だ。人間の本質とは何であるかをよく考え、男と女の機能の違いは動物の機能としての違いだけであり、それは他の動物も同じである。人間の本質とは、すべての生命体の先頭をきって進化していく動物で、その進化とは意識の進化のことを言う。意識の進化も山と谷を繰り返していくのが宇宙の法則である。山の進化が男の象徴であり、谷の進化が女の象徴である。21世紀という時代は谷の進化の時代である。だからこれからは女性という人間が中心的役割を果たしていく時代に入っていく。俺はそんな中で生まれたのだ・・・』 『俺にはしなければならないことがある。竜宮城のような沖縄を地獄に叩き込み、更には日本に原爆を落としたアメリカという国に罪の償いをさせることだ。今までは充電期間だったが、使命を果たす時期がきた』 『父の名前のデビルは悪魔という意味だったが、デビも同じ意味だ』 リエが言った。 『デビルもデビも悪魔という意味ではありません。神性を持った者という意味です』 八郎は悟った。 『なぜこの女と閨事を共にしているのか・・・』 太平洋戦争の史実など真実とまったく逆で、歴史の真実というものは表に出る部分と裏に隠れている部分とがあり、裏に隠れている部分が真実である。 『宇宙を貫く二元論』と、『真実は表現できず、表現できるものは真実にあらず』の真理なのである。 一人の人間が生きている世界は、その人間だけしか実在しない、他のすべては幻想にしか過ぎないことを意味している。 八郎は自分の使命を全うすることを決意した。 『アメリカという巨人を相手に戦うのだ!』 八郎の胸の中でリエが泣いていた。 『ありがとう。わたしたちのためにやって来てくれて・・・』 『いらっしゃい、琉球へ。わたしたちの願いを叶えて・・・』 『ありがとう。わたしたちのためにやって来てくれて・・・』 |