第十七章  リターンマッチ

美香が男だったら、命がなかったところを、父親の村上組長の知らぬところでの所業ということで、組の廃業で収まり、親子とも命は助けられたが、美香の相棒のチンピラは、東京湾に永遠に沈む運命になった。
美香は、その男を少なからず愛していた。
それを海の藻くずにしたのが、まだ高校生の正二郎だったことが、美香には許せなかった。
『必ずわたしの手で仇を取ってやる』
復讐心に燃える美香だったが、宇都宮一郎にとっても、正太郎にとっても、復讐しても、される筋合いはなかった。
逆恨みでしかなかったが、正二郎に対する憎しみが、彼の家族に対しても向けられたのだ。
『坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い』諺通りだ。
しかし、美香は先ず標的を肝心の正二郎に定めて進軍してきたのは、彼女の男勝りの性格が為せるものだった。
2時間も待たされて、いらいらしている美香を、正二郎は、自分の部屋から窺っていた。
二階の自分の部屋から、呆然と歩きながら、やって来た美香を既にキャッチしていた正二郎は、栄子に一芝居打たせたのである。
2時間待たせてある間に、栄子から、リビングルームで待つと言った美香の心を読み切っていた正二郎は、ゲームの必勝策を練っていたのだ。
『よし、これで間違いなく勝てるぞ!』
確信した正二郎は、母親の栄子に耳打ちして勝手口から、学生服を来て出て行った。
そして、近くを更に1時間ほど散歩して、美香をじらす作戦を取った。
『さあ、そろそろ開戦だな』
正二郎は家に電話をした。
「もしもし。宇都宮でございます」
「お母さん、僕だよ。今から15分後に帰るから、お母さんは出かけてよ。料理するのに2時間は掛かるから、それまで買い物でもしておいでよ」
「正二郎一体何をするつもり?」
栄子はちょっと心配していたが、まだ高校1年生の子供と思っていたから、それほど重大に捉えていなかった。
「大丈夫だよ。テレビゲームをしに来ただけだから」
正二郎の話で安心した栄子は、美香のいるリビングルームに行った。
「すみません、わたし出かける用事がありますので、もしまだお待ちになるなら、ここにいて下さい。お手伝いさんにお茶を出すように言ってありますから。もう帰って来ると思いますので。それでは失礼します」
栄子は出かけるのが唯一の楽しみだ。
門の前に待機させていた車に乗った栄子を確認してから、正二郎は家に向かって行った。
『もっと凄い仕打ちで、帰り打ちにしてやる!』
手伝いの人間もいないのをわかっていて、敢えてチャイムを押した。
「はい、どちらさまですか?」
美香が出て来た。
正二郎はにんまり笑った。