第十八章  一寸先は闇

門のチャイムにはアイカメラが設置されていて、映像が映る。
正二郎の姿をキャッチした美香は、一瞬ドキッとした。
「お母さん。正二郎です」
正二郎は芝居をした。
返事がない。
『迷っているな!』
と思った正二郎は、駄目を押すように、「お母さん!早く開けてよ!」と大きな声で叫んだ。
「ちょっと待ってください。今行きますから」
美香が、慌てて返事して、『ガチャッ!』という音がした。
5分程待たされた正二郎は、次の作戦を考えていた。
その時、門の戸口が開き、美香が姿を現わした。
「君!」
驚いた表情をした正二郎を見て、機先を制したと思った美香に微笑がこぼれた。
「わたし、お母さん代わりに、留守番をしていたの」
「な、なんで君が留守番なんだい?」
動揺している振りをして、正二郎は楽しんだ。
お互いに心の中では、既に作戦は出来あがっていた。
しかし、世の中、計画した通りには行かないことを、まだ若くて、頭だけで考えているふたりが思い知らされることが、これから起きようとしているのであった。

「恋を失う」第一部−終わり−