親派の二人

玄関のチャイムが鳴ったのを聞いた敦子は嫌な予感がした。
『博嗣がまた何かを・・・』
博嗣の素行が悪くなったのは中学校に入ってからのことで、一宇小学校の頃はガキ大将ではあったが、性悪の子ではなかった。
熊谷泰隆という友達がいたことが彼にとって救いだった。
同じ一宇中学に進学できるものとばかり思っていたら、父親の清重からの強い要望で博嗣は貞光中学に進学し、一宇中学に進学した泰隆と別れることになったのである。
「なんでわざわざ貞光中学に行かなければならないんだよ!」
博嗣は清重に反発した。
「いい大学に入るには、いい高校に行かないとな!」
清重の言い分だった。
一宇中学に比べて貞光中学は生徒の人数も多く、進学率も比較にならないことは、博嗣もわかっていた。
小学校6年生にもなると、教室での話題は進学する中学校の話で持ち切りになる。
清重の言い分は一見筋が通っているように見えたが、別の理由が隠れているように思えてならなかった。
説明は言い訳の変質したものである。
嘘をついている人間ほど言い訳を言う。
説明という形をつくって、隠しごとをカモフラージュしようとする。
本当のことを言う人間は一切説明をしない。
説明する必要性がないのだ。
清重は一見筋の通った説明をしようとするのだが、すればするほどますます合点が行かなくなる。
博嗣の方が切れてしまった。
「普段は僕のこと全然構ってくれないくせに、どうしてこんな時に構うんだよ!」
肉体的には、況してや精神的成熟に達していない博嗣には、ここまでが精一杯の抵抗だった。
結局は清重が自分の意見を押し通し、博嗣は貞光中学校に入学し、親友の泰隆と別れることになったのである。
精一杯の抵抗も根尽きた時、博嗣の心の中に冷たい風が通り過ぎて行った。
敦子・清重夫婦の犠牲者である。
貞光中学の三年間に、博嗣は完全に人が変わってしまった。
徳島市内の暴走族の仲間にも入る始末で、さすがの清重も放置できなくなったのである。
博嗣の祖父の洋平から指摘を受けた清重は、重い腰を嫌々ながら動かしはじめたが、既に遅かった。
母の敦子は、すべての原因が自分にあることを承知していたから、何も言えなかった。
唯一信頼する母が頼りにならないと、子供は間違いなく非行に走る。
父親は子供に悪い影響を与えるが、好い影響は一切与えない。
だから人間以外の動物の父親は一家から離れて生活をする。
ぎくしゃくした家庭であることは、子供なりに知っていたが、放任する父親なら子供はそんな父親を許す。
放任しているくせに口を挟むような父親になると、子供は父親を拒否しはじめ、いつか復讐に転じる。
玄関のドアーを開けると、敦子は吃驚した。
「どうなさったのですか、お二人揃って!」
玄関には石井一と馬子老人が立っており、その背後に博嗣が隠れていた。