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新しい展開 「敦子さん、平家の血は今も変わりませんな・・・」 馬子老人がしみじみと言った。 「源頼朝は武家政権を確立するために自分の弟まで殺したが、平清盛は自分の孫を天皇にまでしようとした・・・」 敦子は馬子老人の意図を充分承知していた。 「清重さんも名前を変えられた方がいいんじゃないですかな・・・」 馬子老人は源平合戦で頭領として敗れ、八歳の若さで入水した安徳天皇を博嗣と重ね合わせていたのである。 「自分の娘の徳子を高倉天皇の后に無理やりさせ、言仁(ときひと)を生ませると同時に立太子させ、二歳になった言仁を天皇にするため、高倉天皇を退位させた清盛のお陰で、八歳の若さで壇の裏で入水しなければならなかった安徳天皇の祟りが、一宇村には充満しているんですよ」 石井のうしろに隠れている博嗣に、馬子老人は熱い背線を送りながら、目の前にいる敦子に訴えた。 石井一は馬子老人の獅子奮迅の健闘ぶりに圧倒されて暫くは沈黙を保っていたが、安徳天皇の話が出ては黙っていられない。 「徳島というところは平家の血一色なんです」 極道の世界では泣く子も黙る存在観を示す石井だが、平家の頭領の血を引く敦子には頭が上がらない。 「その平家の頭領の血を引くご子息が、わたしらごとき極道の世界に入りたいなんて言われたら、そりゃわたしとしてどう対応したらいいのか・・・」 泣きそうな表情で敦子に訴える。 「博嗣がそんなことを石井さんに頼んだのですか?」 敦子は冷静に応えた。 「徳島の極道はですね・・・」 石井が身を乗り出して喋ろうとしたとき、うしろにいた博嗣が石井の前にずかずかと飛び出した。 「お母さんは何も悪いことはないんだ!」 博嗣の言っていることが皆目理解できない石井が馬子老人に助け船を求めた。 敦子は必死に堪えていた。 『ここで我慢しなきゃ、何のための10年だったのか・・・』 『馬子老人は、夫のことを言ってるんだ、あの人のことではないんだ・・・』 『徳島の人たちは皆平家贔屓だから、九州の平家など認められないんだ・・・』 必死に堪えると口が締まり言葉が出なくなる、その分内なる囁きが頭から喉を通って胸の辺りにかけて響き、肉体が空洞の筒となり管楽器になって、全身に囁きが鳴り響くのだ。 敦子は決断した。 「石井さん、博嗣のことをよろしくお願いします」 石井に深々と頭を下げて言う。 「敦子さん、本当にいいんですか?」 石井は敦子の言葉が信じられなくて問い返した。 博嗣が横から口を挟んだ。 「お母さんは決めたんだ!」 一言一言吐く言葉を呑み込みながら博嗣は続けた。 「普通の女性だったら疾くの昔に蒸発していた筈だ・・・」 「だけど僕のために10年間我慢してきたんだ!」 「お母さん、もう我慢しなくていいよ!」 博嗣の熱い想いの言葉で貝殻に閉じ篭った心が次第に溶けそうになる。 しかし敦子は必死に堪えた。 『ここで我慢しなきゃ、何のための10年だったのか・・・』 馬子老人が石井に向かって頷いた。 すべてを合点した石井ではなかったが、さすがに極道を張った男だ。 「よくわかりました。ご子息のことはわたしが引き受けました」 敦子は石井と馬子老人に深々と頭を下げた。 三人の姿に感動した博嗣の目には涙が溢れていた。 『よかった、これでよかったんだ!』 |