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辛いめぐりあい 泰隆は久しぶりに大学からの帰路を変えてみることにした。 普段は和歌山港と神戸港を結ぶフェリーで通学しているのだが、大学の友人と大阪の難波に出ることになったのだ。 和歌山市駅から難波まで特急に乗れば1時間程度で着く。 和歌山県は47都道府県の中でも有数の広さを誇っているが、殆どが山間部で道路網整備ではこれまた全国でも有数の未開地域でもある。 和歌山県の県庁所在地である和歌山市は西北に位置し、大阪府の県境に近いところに位置しているために、大阪の中心地のひとつである難波、通称南(みなみ)には極めて近いのである。 「君は大阪に住んでるんやったな?」 泰隆は上田大輔に訊いた。 「そうやで、石切さんって知ってるか?」 泰隆は大輔が言っていることがわからなかった。 「石切さんって何やそれは?」 細い目をした大輔が奇声を発して笑うから、ますます目が細くなり、その奇声と相俟って仏像のような表情になる。 「お前笑うと、東大寺の日光菩薩のような顔してるな!」 泰隆も可笑しくなって笑った。 「そういうお前も笑うと、東大寺の月光菩薩のような顔してるで!」 お互いの顔を見合わせて難波に向かう電車の中で笑っていたふたりを隣の車両から見ている男がいた。 「難波!難波」 難波駅構内のアナウンスが電車の中まで聞こえる。 泰隆と大輔は席を立ってドアーに向かった、その延長線上に彼らをじっと見ていた男もドアーの傍に立った。 改札口を出たふたりはエスカレータに乗って階下に下りる。 二列になった降下用エスカレータの別の列に乗った男がじっと彼らを睨みつけている。 泰隆がエスカレータの途中でその男に気づいたが、見知らぬ男だったので何も言わずにいた。 難波駅ビルの外に出たとき突然その男がふたりに近寄ってきた。 「お前ら学生のくせに電車の中でふざけやがって!」 大声で叫ぶなり、大輔の鼻頭に向かってその男の拳が飛んできた。 大輔は3メートルほど後ろに飛ばされ仰向けに倒れ、鼻からは真っ赤な血が噴き出している。 真っ赤な血しぶきを見た泰隆は吃驚仰天して呆然と立っている、そこへ血しぶきがついた拳が更に泰隆めがけて飛んできた。 一瞬目の前が真暗になった直後、一閃の光が遠くから見えたような気がして、泰隆は気を失った。 「熊谷!俺や、博嗣や!」 気がついて目を開けると、白い天井に博嗣の顔が映っていた。 泰隆は夢を観ていると一瞬思った。 「熊谷!俺や、博嗣や!」 今度は白い天井の手前に博嗣の顔が見えた。 「平か?博嗣か?」 覚醒と眠りの夢の途中で往き来する。 覚醒が徐々に眠りの夢を覆って行くに連れて、夢が現実の中に浸透していく、その中で泰隆は現実の博嗣の姿を確認した。 「ここは何処なんや?」 「上田はどうしたんや?」 部屋の中は煙草の匂いが充満していて泰隆の鼻にも届き、突き刺すような刺激が鼻から目頭に走った。 「何や、この匂いは?」 そして泰隆は再び気を失った。 |