Chapter 250 夢語はひらがな・カタカナ

世界にはおよそ5000種類の言葉がありますが、その中で日本語ほど変わった言葉はありません。
英語は26種類のアルファベットと10種類のアラビア数字の計36文字でできているように、他のヨーロッパの国の言葉もすべてアルファベットを基礎にしたもので、その語源はみんなインドの古代サンスクリット(梵語)に源を発すると言われています。
白人のルーツがインド・アーリア系にあるのと一致しているわけです。
一方、旧約聖書が書かれたヘブライ語は、セム系人種がそのルーツであり、他にアラム語、アラビア語、エチオピア語などがありますが、やはり22種類のアルファベットで構成された言葉です。
モンゴルとウィグル系言語は中央アジアにあるアルタイ山脈地帯で使われていたアルタイ語が語源であり、アフリカのニジェロ・セネガリース語はニジェールとセネガル川に挟まれた地方で使われていたといった具合に分類される中で、日本語はどの言語にも関連がない実に変わった言葉であるのです。
その特徴は、漢字、ひらがな、カタカナの三種類の文字が混在している点にあります。
アルファベットが基本にある言語がほとんどの中で、数万もある漢字の上に、それぞれ五十音のひらがな、カタカナがある言葉など5000種類ある言葉の中で極めて珍しいものです。
漢字は仏教の伝来と共に中国から韓国経由で入ってきた外来語で、ひらがな、カタカナは日本人独自で考案した文字ですが、その誕生は漢字が伝来してから数百年後のことであるのです。
自国の言葉が先にあって、そこに外来語が入って来るのが自然であるのに、漢字の後にひらがな、カタカナがつくられたのです。
「日本語が壊れていく」という作品を書きましたが、その中で日本人の原風景を表現しているのは、「万葉集」であると申しましたのも、漢字ではあるけれど本来の表意文字ではなく、表音文字としての万葉仮名による歌集であり、それはひらがな、カタカナが原点にあるからです。
日本の歴史を考える上で非常に大事なことは、「記紀」と呼ばれる古事記、日本書紀が公式の歴史書になっているけれど、共に漢字で712年と720年に書かれたもので、それ以前のものは、645年の大化の改新という事件の時に滅ぼされた蘇我一族の手によって焼きつくされたのです。
一方万葉集は奈良時代末期、つまり8世紀後半に編纂された4500首にものぼる和歌で、三十一文字の短歌のほか、長歌、旋頭歌(せどうか)などで構成された純日本歌集であります。
「記紀」が日本の公式歴史であるけれど、漢字という中国語を基にした仏教色の強いものであったのに対し、万葉集は歴史書ではないけれど、ひらがな、カタカナを基にした原日本人のアインデンティティーを打ち出した言霊集であったのです。
聖徳太子の「十七条憲法」、三十一文字の短歌、俳句など十七文字に込められた意識が、原日本人の依って立つ所であったのです。
「鬼神」という作品で、「鬼の掟十七条」というものをつくったのも、そういった観点からでありました。
つまり、漢字伝来以前から、ひらがな、カタカナの基になるものが、日本には存在していたと思うのです。
わたしたち日本人が、無宗教民族であるとか、多くの混血した民族(大和民族)であると言われるのは、日本人のアインデンティティーを失ったからであり、その極みが、現代日本社会に現れているように思えるのです。
ひらがな、カタカナ文字の神髄を表現する万葉集を読みなおすことで、日本の原風景を甦らせる必要があるのです。
夢を観ているとき、わたしたちの夢語はあきらかに、ひらがな、カタカナの言霊であるのです。