Chapter 307 夢の国

善人である一般大衆のわたしたちほど、恐るべき化け物はおりません。
自分では、人間社会のルールを厳守して生きていると、卑小なプライドを持っている、困った化け物なのです。
この困った化け物が、人間社会を、“なんでもありの社会”つまり拝金主義社会にしてしまった張本人であるのです。
悪徳政治屋、偽善役人、破廉恥企業人が、この世を支配しているように思えますが、そんな連中を創り、野放しにしているのは外ならぬ、わたしたち一般大衆という名の化け物であるのです。
21世紀には、真の共産主義が実現されねばならないと申しました。
世界を振り返ってみて、極めて象徴的な現象が極東地域に表れている。
北朝鮮と日本です。
歪められた共産主義思想の遺物が、この二つの国に象徴されているのです。
アメリカを筆頭に、自由主義思想を金科玉条のように掲げている国々と、啓蒙主義思想を近代国家発生の生立ちとするヨーロッパの国々(EU共同体)というふたつの対立軸が、現代世界の構図となっている中で、ひとり−ひとりではなくてふたつの国ですが−ポツンと孤立しておるのが、北朝鮮と日本であるのです。
こんな風変わりなふたつの国を、何とか取り込もうとしているのが外ならぬアメリカなのです。
その背景には中国という大国の存在があることを見逃してはなりません。
朝鮮半島と日本列島は、欧米列強帝国主義国家にとっては、飽くまでも中国の衛星国家でしかないのです。
標的は常に中国であったし、またこれからもあり続けるのです。
アメリカ・イギリスというアングロサクソン民族国家にとって、自由主義思想とは、支配意識の極めて強い自分たちノルマン人の気質を満足させるための道具でしかないのです。
そして、ドイツ・フランスというゲルマンおよびラテン民族とのキリスト教圏における覇権争いがその原点にあり、更にその向こうには、ローマ帝国への郷愁と愛憎が潜んでいるのです。
嘗てのローマ帝国の中心は、アングロサクソン系ではなくて、ラテン系であり、キリスト教においてはゲルマンつまりドイツであったことに対する愛憎であるのです。
共産主義国家の盟主であったロシアをソ連崩壊直後には、取り込むことに成功したと思っていたアメリカは、残る中国を取り込むことが最重点課題であったわけで、その外堀である朝鮮半島と日本列島を先ず埋めることを、アメリカは戦後してきたのです。
ところが朝鮮半島が二つに分かれてしまった。
韓国と日本を自分たちの属国にすることには成功したが、北朝鮮というややこしい存在が誕生した。
更に、属国と思っていた日本が経済的な脅威をもたらす存在となってきた。
1989年にソ連が崩壊したとき、アメリカの支配者たちは、この問題を既に論議していたのです。
日本のバブル発生とその破裂は、まさに彼らの戦略であったのです。
戦後間もない頃の日本の政治家は、韓国のように無条件にアメリカに追従するようなことはしませんでした。
経済的にはアメリカに依存しなければ生きて行けないのが現実でしたから、表面的には安保条約を結び、追従しているようなポーズを取ってはいましたが、性根はすわっていました。
ところが1985年のプラザ合意で、性根まで属国根性になり果ててしまったのです。
その最大の象徴が、モータライゼイションにあります。
戦後日本経済を引っ張ってきたのは、家電業界と自動車業界でした。
このふたつの巨人業界が、今や天国と地獄に分かれてしまった。
家電業界は、デフレ社会の寵児のような存在で、企業努力で消費者に安価な商品を提供し続けてきた。
20万円していたテレビが2万円で手に入る世の中にした結果、企業存亡の危機に陥る羽目になってしまった。
ところが自動車価格は依然右肩上がりという、デフレ時代に逆行する役所、鉄道、高速道路と同じ立場で居続けているのです。
この原因は、昨今問題になっている三位一体のひとつである道路特定財源にあるのです。
道路特定財源とは、国交省が死守してきた聖域で、国交省の道路整備特別会計は、財務省の一般会計から完全独立した聖域であるのです。
自動車を買ったときに払わされる自動車重量税は年間1兆円以上あり、うち7割が国、3割が地方に配分され、国の取り分である7割のうちの8割が道路特定財源に入る仕組みになっているのです。
更に、自動車にはさまざまな税金がついてまわるのは、一般国民なら誰でも知っています。
自動車を買うと、購入者が払わなければならない自動車取得税が年間4千8百億円。
消費税が年間8千億円。先の自動車重量税が1兆円。軽自動車税が1千3百億円。
更に、自動車を保有しているだけで掛る自動車税が1兆8千億円。
計4兆2千百億円。
走行段階では、揮発油(ガソリン)税2兆8千億円。軽油取引税1兆2千億円。
石油ガス税3百億円。消費税3千6百億円。
計4兆3千9百億円。
車体、走行合わせて9兆円近くなり、うち目的税は国交省の道路整備特別会計に回り、地方税も目的税は道路事業に回る構造になっている。
結果、道路特別財源に5兆8千億円にものぼる巨額が回る。
これに一般財源として毎年3千億円を国民の税金による一般歳出から日本道路公団に回され、それでも飽き足らず一般財源、地方債を発行して、年間12兆円にものぼるお金が、道路予算としてはじき出される始末です。
日本の26倍もの広大な国、アメリカの道路予算とほぼ同額であり、まさに常軌を逸しているとしか言えません。
そして、自動車にまつわるこれらの巨大な権益構造が、自動車業界を濡れ手に泡のカルテル業界にしているのが実体であるのです。
結果、家電製品のように消費者のためになる値下がりが実現されず、自動車会社だけが暴利を貪る結果となって、日本一の企業が誕生したのです。
まさに政・官・財癒着の典型であります。
アメリカは敢えてこのような日本を容認してきたのです。
アメリカにおいても自動車産業は国の目玉商品であるからです。
更に、日本を属国にしておくための戦略商品であるのです。
極東地域に存在する、異常なふたつの国家。
“露と落ち、露と消えにし我が身かな、浪花のことも夢のまた夢”
豊臣家はこうして滅亡していきました。
日本という国もまた、夢の国なのでしょうか。