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Chapter 349 惑う悟り 悟りとは到達する境地ではなくて、至る過程にあると言っていいでしょう。 常に変化している無常の世界で生きているのですから、ゴールなどないのに、わたしたちはゴールを目指します。 不可能なことを追いかけるのですから、ジレンマに陥るのが当然の帰結であります。 ゴール志向とは、まさしく未来志向であって、現在を否定する上に成立していることに気づかなければなりません。 現在を肯定すれば、未来志向は起こりようがないのです。 過去のことに想いを馳せるのは、現在を否定していることに外ならないことに気づかなければなりません。 現在生きている自分をそのまま肯定すれば、過去や未来に想いを馳せることは一切なくなります。 現在生きている自分をそのまま否定すれば、過去や未来に想いを馳せるしかないのです。 現在を肯定し、過去や未来も肯定して生きて行くことなど有り得ましょうか。 現在を否定し、過去や未来も否定して生きて行くことなど有り得ましょうか。 現在と過去・未来は決して共存することは有り得ないのです。 過去は既に起きてしまったこと。 未来は未だ起きていないこと。 つまりどちらも完了形を基本にしているわけであって、完了形の肯定と否定という裏表の関係にあるだけです。 現在には完了形など基本的にはなくて、あるのは進行形だけです。 運動の光と音(喧騒)の宇宙であることが時間の概念を生んだわけで、静止の暗闇と沈黙の宇宙では時間の概念など生まれようがないのです。 動くということは時間があるということ。 時間があるということは動くということ。 動かない、つまり静止しているということは時間がないということ。 時間がないということは動かない、つまり静止しているということ。 更に、 動くということは力が働いているということ。 力が働いているということは動くということ。 動かないということは力が働いていないこと。 力が働いていないということは動かないこと。 わたしたちの宇宙は150億年前にビッグバンという大爆発によって誕生したということは、今や誰でも知っています−金融ビッグバンなどという言葉があることがその証でしょうー。 ビッグバン以前と以後の違いは何かと申しますと、以前は唯一の力しかなかったのが、以後には四つの力に分かれたという点に集約されるのです。 唯一とは無いということと同じであります。 従って、ビッグバン以前と以後の違いは、力のない世界と力のある世界との違いと言っていいでしょう。 力のある世界とは動く世界だということを、F(力)=m(質量:すべての存在するもの)α(加速度)という式が表わしているのです。 α(加速度)があるということは動くということに外ならないのです。 従って、力のない世界とは動かない世界つまり静止の宇宙ということになるのです。 わたしたちの宇宙が動く宇宙なのですから、完了形はなく常に進行形である。 従って、過去や未来など一切なく現在しかないのが、わたしたちの世界であることを重々認識することです。 現在の極限値とは、言うまでもなく、『今、ここ』であります。 数学的に表現すると、Limit(現在)時間→∞=『今、ここ』ということになります。 過去や未来という言葉を死語にしない限り、『今、ここ』という真の悟りはないのです。 過去・未来を死語にすることによって、過去・未来の対極にある現在も死語になり、過去・現在・未来という実時間を死語にすることによって、実時間の対極にある虚時間、つまり、『今、ここ』も死語になる、・・・・・・等々・・・・。 そして何もかも消えて行く(対消滅して行く)と、そこには静止の暗闇と沈黙の世界が開けてくる。 わたしたちの宇宙がただ動くだけではなくて、膨張と収縮を繰り返すということが、ニュートリノの重さを計ることに成功した結果判明した。 そうしますと、静止の暗闇と沈黙の世界は、遠い遠いわたしたちに縁のない世界ではなくて、すぐ傍にある身近な世界であることも判明した。 膨張から収縮に反転するということは、反転箇所つまり折り返し点がある。 この折り返し点こそ、静止の暗闇と沈黙の世界であるのです。 そして、この折り返し点は、わたしたちの日々の生活の中で無数に経験している出来事でもあるのです。 毎瞬間繰り返している息も、吸気と呼気の間に折り返し点がある。 毎日繰り返している睡眠も、眠りに就く眠りから醒めるという折り返し点がある。 毎年繰り返している四季も、春夏秋冬の変わり目に節という折り返し点がある。 毎一生繰り返している人生も、生と死の間に折り返し点がある。 運動の光と音(喧騒)の世界と、静止の暗闇と沈黙の世界とは、まさに表裏一体の関係にあるのです。 わたしたちは今、膨張の過程にある宇宙に住んでいます。 つまり進行形の真只中にいます。 だから、悟りとは到達する境地ではなくて至る過程、つまり惑うことに外なりません。 |