Chapter 439 一回限りのエンジン

眠気を催すということは、車の運転で言えばギアーチェンジを要求していることに外なりません。
そうしますと、逆の現象つまり醒気もギアーチェンジの要求をしていることになります。
では、ギアーチェンジの要求は、どんな状態で起こるのでしょうか。
エンジンの性能は一般には馬力(Horse Power)で表しますが、もうひとつトルク(Torque)という表現方法もあります。
トルク(Torque)とは、回転している物体の回転軸の周りに働く力のモーメントのことを言います。
振り子のモーメントの場合は、往復運動ですが、車のエンジンの場合は回転運動におけるモーメントをエンジン・トルクと言って、馬力が一回転あたりのHorse Powerに対し、トルク(Torque)は一回転あたりの仕事量(kg・m)で表します。
一馬力=75kg・mつまり75kgの重さのものを毎秒1メートル動かす力を言います。
停止している車を動かすには、大きな力が必要ですが、一旦動き出すと、慣性力がついて、その分少ない力で済むので、エンジンに掛かる負担つまりトルクが少なくて済むわけです。
エンジンは往復運動を回転運動に変換するレシプロ・エンジンと、エンジンそのものが回転運動をするロータリー・エンジンがあります。
そして、エンジンの回転運動を車の軸に伝えるのがトランスミッションという、ギアー(歯車)を組み合わせたものであります。
エンジンの負担を軽くしたり、重くしたりするのが、トランスミッションで、エンジンの回転数と車軸の回転数の比率を変換する装置なのです。
ギアーチェンジとは、回転比率を変える操作に外なりません。
従って、眠気を催す、若しくは醒気を催すのは、エンジンの回転比率を変える作業であって、その原因はモーメントの変化への対応であるのです。
モーメントとはトルクつまりエンジンの負担であるのですから、人間のモーメントもトルクつまり動くために負担する力、つまり努力に外なりません。
ギアーチェンジとは努力の発揮程度の変換と考えたら、よりわかり易いのではないでしょうか。
一日24時間フルに努力をすることは、やはり息切れします。
状況に応じた減張が必要です。
眠気を催すとは、ローギアからセコンドギアー、セコンドギアーからサードギアー、サードギアーからトップギアーへのシフトアップであり、醒気を催すとは、その逆のシフトダウンと言えるでしょう。
そうしますと、睡眠状態と覚醒状態の違いは、トルク(モーメント)の程度の違いだということがはっきりしてきます。
振り子の振り幅が大きくなればなるほど、モーメントは大きく掛かります。
振り子の振り幅が小さくなればなるほど、モーメントは小さくて済みます。
しかし、エンジンが動き続けているのが前提条件であります。
わたしたちにとってのエンジンは心臓であると言っていいでしょう。
エンジンの動き自体が「普段の運動」であって、アクセルによってエンジンの回転数を増減するのが「激しい運動」であり、「普段の運動」と「激しい運動」の間の負担を出来るだけ軽くするために、ギアーチェンジが必要なわけです。
車を推進するとは、人生を生きることであって、時にはバックギアーに変えて後退することもあります。
レース中の車のギアーチェンジはひっきり無しで、ひとつのギアー状態に止まっていることは殆どありませんが、逆に余計ダブルクラッチが必要なのです。
つまりレオナルド・ダ・ビンチのように細切れに睡眠を採る中で、ニュートラルポイントのような覚醒した生き方をしないと、厳しいレースに出るような人生を送ることができないと言えるわけです。
人生はマラソンレースだと言われます。
人生そのものがレースであるのですから、わたしたちは最高のパーフォーマンスを発揮するのが生きている意味ではないでしょうか。
しかし、ひとたびエンジンを切ったら、わたしたちのエンジンは永遠に停まります。
車のエンジンのように、イグニッションを使って、再度エンジンを動かすことは出来ないのであります。