Chapter 517 新しいヘレニズム文明

ギリシャ時代からローマ時代へ移る過程でヘレニズム文化が起こります。
つまり西洋文明と東洋文明が交差した文明のことをヘレニズムと言うのですが、その最大の功績者がアレキサンダー大王だと言われています。
世界を支配するために、東へ東へと侵攻していったアレキサンダーは遂にインドの国境まで到達した。
インドは当時から精神文明の進んだ地として西洋でも有名であり、ギリシャに負けないくらい多くの哲人を輩出していた。
インドの国境付近に近づいたアレキサンダーは、インドの有名な哲人に会いたいと思い、自らその哲人のところへ赴いた。
その哲人は、裸の哲人として有名で、土管を我が家として四六時中裸で暮らしている。
アレキサンダーは彼の前に立って言った。
“わたしは、世界征服者のアレキサンダーだが、お前に会って真理を聞くためにわざわざ国境まで出向いてきた”
裸の哲人は言った。
“お前さんは世界征服者と言うなら何でもできるはずじゃろ?ひとつだけ頼み事があるがいいかね?”
アレキサンダーは満足気な表情で答えた。
“何でも言ってみるがいい。わたしにできないことはない”
裸の哲人は言った。
“せっかく日光浴をして人生を楽しんでいるのに、あんたが影になって、その邪魔をしている。悪いがわしの前から消えてくれないか”
アレキサンダーは一瞬カッ!となったが、所詮乞食同然の男と思って、何も言わずにその場を立ち去った。
しかし、その日を以って、アレキサンダーの十年に及ぶ東方遠征は終わった。
一部の事実しか伝えない歴史では、アレキサンダーは遠征途中で病死したとなっているが、実はこの世的成功を追求し続けた空しさを、この裸の哲人から教わったことが、東方遠征を思い止まらせ、ヘレニズム文化が生まれたのです。
常に明日を見続けて生きてきたアレキサンダー。
『今、ここ』の日光浴を楽しんで生きてきた裸の哲人。
現代日本社会にも、この光景に似たものが多く見られます。
拝金主義に塗れたわたしたち大衆ひとりひとりが、“もっと、もっと、もっと”と何かを追い求めて生きているアレキサンダーです。
それを何処となく冷ややかに見て日光浴をしているホームレスひとりひとりが裸の哲人ではないでしょうか。
アレキサンダーの遠征はいよいよ終焉を迎えているのです。
新しいヘレニズム文明が、もうそこまでやって来ているのです。