Chapter 626 『今、ここ』の味

『今、ここ』の 『今』に立って生きているわたしたちは、『ここ』という空間軸の原点を感じて生きています。
一日・一年という時間を静止させた結果感知できる朝・昼・夜・春・夏・秋・冬を視覚によって紫・藍・青・緑・黄・橙・赤という色情報、聴覚によってド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レという音情報、嗅覚によって3千から1万種類の匂い情報に収束された五感情報つまり記憶という形で持っています。
記憶は時間ではなくて空間であると申しました所以であります。
一日・一年という時間を静止させた結果感知できる朝・昼・夜・春・夏・秋・冬を味覚で感知すれば甘味・酸味・塩味・苦味・旨味の5種類に収束された五感情報つまり記憶となります。
味覚はヘニングの味の4面体(四つの正三角形)というのが有名ですが、最近では旨味という甘味・酸味・塩味・苦味とは独立した味もあって5基本味が定説ですから、ピラミッドと同じ形をした正四角錘の5面体で表現した方がいいかも知れません。
そうしますと旨味は他の四つの味のような正三角形ではなくて底辺の正方形という、甘味・酸味・塩味・苦味とは違った味ということになります。
旨味とは甘味・酸味・塩味・苦味を混合してつくることのできない独立した味であるわけです。
甘味・酸味・塩味・苦味は舌という味覚器官で感知します。
甘味は舌の先端(舌尖)で感知し、酸味は舌の両端(舌縁)で感知し、塩味は舌尖と舌縁で感知し、苦味は舌の奥(舌根)で感知するが、旨味は舌では感知できないで味情報を記憶した大脳で判断された結果です。
舌で感知した四つの基本味が舌の味細胞から味覚神経を通って大脳へ伝達され、アミノ酸系の旨味と核酸系旨味とに判別され、“旨い!”と感じるわけです。
味覚器官の代表が舌ですが、舌以外に口中の皮膚で味を感知する結果の味が他にあります。
辛味、渋味、えぐ味、金属味、アルカリ味などで一般的には旨味の反対のマズイ味と言えるでしょう。
結局の処、味覚情報も味覚器官では甘味・酸味・塩味・苦味・辛味・渋味・えぐ味・金属味・アルカリ味といった種類の味情報であるのですが、大脳に伝達された結果、旨味とマズイ味の二元要因に収斂されてしまい、善・悪、強・弱、賢・愚、貧・富・・・幸・不幸、天国・地獄、神・悪魔の二元論世界に嵌り込んでしまうわけです。
五感で感知することはすべて大脳新皮質では善・悪、強・弱、賢・愚、貧・富・・・幸・不幸、天国・地獄、神・悪魔で区分けされてしまうのが、わたしたち人間という知性ある生き物の哀しい性であるのです。
記憶とは五感で感知しただけのものであるのですが、大脳新皮質にある大きなふたつの棚のどちらかにしまい込まれるわけです。
知性によって地上を制覇した人類ですが、反面大きな犠牲を払う結果になった。
大きな犠牲とは、何事も善・悪、強・弱、賢・愚、貧・富・・・幸・不幸、天国・地獄、神・悪魔でしか判断できない禁断の実を食べたお釣りなのでしょうか。