第十四章 四国の大王・稲飯(いなひ)

白い肌で青い目をしていると聞かされていた稲飯の顔を見た須佐之男が驚きの声を発したのは、確かに幾分白い肌で目は青かったが、それよりも着ている服装であった。
『見たことがある服だ・・・』その程度しか稲飯と対面したとき思わなかった須佐之男だが、百済人が着ている服装とまったく同じであることを思い出したのである。
親父のフツと李生成の下、百済と戦ったことがあり、その時の百済人の服装が、いま目の前にいる稲飯とまったく同じなのだ。
「何か、わしのどこかが変わっているのかな。須佐之男とやら」と稲飯は口を開いた。
「あなたの服装が、百済人のものと同じなので・・・」と率直に言う須佐之男に稲飯は笑いながら答えた。
「その通り、わしには百済人の血が入っており、わし自身、百済からやって来た。わしは百済人の母と、唐の西の果てにあるペルシャ人の父との混血であるから、このような青鬼のような顔をしておる。ペルシャ人である父はシルクロードを通って唐の国と交易をしていたが、その時、唐が目の敵にしていた百済人の母と出会い、わしが生まれた。父は唐の報復を恐れ百済の漢城に逃げたが、結局両親とも唐の兵によって殺され、わしは伽耶まで逃げ落ち、伽耶から対馬を経由して日向の西都原に行き着いた。しかし、そこでもこの白い肌と青い目が原因で受け入れてもらえず、仕方なく死の国と言われ、忌み嫌われていたこの地にやって来たのだ。そして驚くべき事実を知ったのだ。伊予の国に辿り着いたわしは、わしと同じ白い肌で青い目をした人間が一杯いて、彼等の祖先は西都原の先住民で、今、西都原を支配しているのは、百済からやってきた連中だったのだ。彼等は百済の住民と同じ人種だ。今から500年ほど前に白い肌で青い目をしたペルシャ人がシルクロードを通って大量に百済にやって来て、わしがやって来た同じルートでこの西都原に最終的に住みついたのだ。ところが、今から約50
年前に百済人が、唐の攻撃を受けて、この西都原にやって来て、先住民になっていた我々の祖先を死の国に追いやったのだ。今の西都原を支配しているのは2代目の大王で巫女の最上位にいて貴巫女(キミコ)と呼ばれている。わしはいつの日か、ここにいる同胞の連中を引き連れて西都原に攻め込むつもりでおる。そして伊予から、この阿倭の国に本拠地を移して、その機会を狙っておるのだ」 率直に話す稲飯に須佐之男は好感を持った。
須佐之男も、自分の生い立ちから過去の高句麗、出雲での出来事を稲飯に話した。
「どうやら、生い立ちも人種も、お互い違うようだが、この国の将来を左右する宿命を持った者同士のような気がする」稲飯も須佐之男を気に入ったようであった。
「この国は四つの大きな島があって南北に長く伸びている。そして一番大きな島が出雲のある島だが、出雲は南の端に近いところに位置していて、ちょうど、この阿倭の国の向こう岸にある淡の島の更に北にある処が、中心に当たるところらしい。わしは、西都原を奪回した後、この最大の島の中心の処に行ってみたいと思っている。多分そこにも先住民がいるだろうが、彼等と争わず、仲良く暮らせる国を造ってみたいと思う」
稲飯が言った、最大の島の中心の地に行ってみたいと須佐之男も思った。
「何という名の地ですか?」と須佐之男は稲飯に訊ねた。
「何という名か、聞いたことはない。しかし、わしが行った暁には、この阿州の倭という国と先住民が、皆一緒に仲良く暮らすために大きな倭という名にしたいと思っている」
「大倭ですか」須佐之男は言いながら、良い名だと思った。
「この死の国の南端に土佐という国があるが、大きな海に面していて、元々は西都原の先住民の中で一番高貴な家柄の人たちが、これ以上逃げられない場所として閉じ込められたところだが、限りなく続く水平線上に毎日、陽が最初に昇ってくる。そこでは、陽の元(ひのもと)の国と呼んでいる」
『大倭と陽の元の国か・・・』須佐之男は、大きく想いを膨らませるのだった。