第十六章 淡・赤穂・丹後

石立山を降りた須佐之男は、大和(おおやまと)の国造りの為に、本島中心部に行ってみたいと稲飯に申し出た。
稲飯は、
「今、本島と死国とが係わりを持つのは、安芸と海張のルートと、阿倭と淡の島を経由して吉備の国から丹後へと通じるルートだけで、大和を造ろうと思っている御室(みむろ)山の辺りは、すでに先住民社会が出来あがっていて、そう簡単には行けない。まずは、淡の島から吉備、丹後へ行って、丹後と出雲との橋を造ることが大事だと思う」と須佐之男に説明した。
「御室山が大和の中心になる場所ですか?」
「わしもまだ行ったことがないが、吉備や丹後の連中に聞いてみると、石立山に似ているらしく、その周辺は阿倭に似ていて、我々とまったく違った生活方式をしているらしい。狩猟生活ではなく、自然の恵みが豊富らしく、毎日狩猟をする我々と違って、穏やかで、豊かな生活をしていると聞いている」
稲飯の話を聞いてますます行ってみたい思いに駆られる須佐之男だった。
淡の島は思ったより大きな島で稲飯の支配下にあり、北端にある福良(ふくら)から吉備の国に渡るのだ。
吉備の国は、常に他国から支配を受けてきた処で、そこに住む住民は独特の精神構造をしており、自主性がなく、強い者にへつらいながらも、我が身の保身意識は強烈に持っており、須佐之男のような率直な者には、何を考えているのか分からない、狡猾な人種に見え、まったく馴染むことができなかった。
しかし吉備の東にある赤穂から明石にかけては住人の人柄がまったく逆であることを知った須佐之男は、いずれこの地を特別な国に育てあげようと心に決めた。
須佐之男は赤穂から山越えをして丹後に入った。
丹後は出雲と同じ海に面した国で出雲と共通点がたくさんあり、久しぶりに出雲に帰った錯覚に陥ったぐらいだった。
丹後を支配していたのは海部(あんべ)一族で出雲のクシ一族とは姻戚関係が既に出来あがっていた。
出雲からクシとイナダが丹後の真井(まない)に先に来て、須佐之男を出迎えてくれた。
ひさしぶりの再会を喜び、海部の館で須佐之男は、死国のこと、特に死国を支配している稲飯のことを、みんなに話した。
「フツシさまは、立派になられた。よほど、その稲飯さまを気に入られたようですね」と言うクシに、
「わしは、稲飯どのが支配する死国が今まで見てきたいろいろな国の中で一番開けた処だと思う。高句麗のピョンヤンよりも上だ。稲飯どのは、わしに大和の国を造るようにと言われたが、稲飯どのこそ、この島国をひとつにまとめあげられる御方だと思う」須佐之男は素直に稲飯を尊敬していた。
海部一族の長である水彦(みなひこ)が口を開いた。
「あの方は、白い肌で青い目をしておられたことが理由で、どこに行っても嫌な想いをしながら生きてこられた。だから絶対に死国から離れることはないでしょう。須佐之男さまに託されたのも分かるような気がします。あの方が考えておられるのは、出雲、安芸、死国の阿倭、そして丹後を連合した国家を須佐之男さまに造って欲しいと思っておられます。そしてその後、大和国家を建設したいのでしょう。しかしその役目は須佐之男さま、あなたですよ」水彦からはっきり言われた上にクシから出雲の状態を聞いた須佐之男は、出雲に帰る決心をした。