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第十七章 ズガとの再会 フツが死んで1年が経った。 須佐之男という名になって出雲に1年ぶりに帰ったら、ヤマタのオロチ一族は完全にズガによって掌握されていた。 須佐之男が帰ったと聞いたズガは自分から出向いて行った。完全に兄たちを掌握したといっても、須佐之男が館に来たら何が起こるか分からない。 横田にあるクシの館の門の前で、自分を待っていた弟の姿を見たズガは一段と逞しくなったと思った。 「赤鬼、青鬼退治をしたと聞いたが、一段と逞しくなったのう!」と声をかけられた須佐之男は、久しぶりのズガの声に胸がじーんときた。 「留守の間、出雲は平和だったと聞きました。あなたのお陰だと感謝しています」 須佐之男は、この1年間ズガによる誠意ある統治に敬意を表した。 「いや、いずれはお前が統治することになるであろうこの国を、少しでもよくしておいてやろうと思っただけだ。わしは、するべきことをしたら高句麗に帰るつもりだ」 「しかし、高句麗に帰ってもアメがいるのでは?」と言いかけた須佐之男を制してズガは続けた。 「もちろん高句麗は、兄のアメが親父の李生成の後を継ぐ。わしはシルクロードの西の果てにあるローマという国に行ってみたいのだ。そして唐の国とローマの国をよく見てみたい。東と西の両雄がいずれは激突するときが来る。何時になるか、また唐やローマがその時まで繁栄しているかどうかも分からない。しかし東西が雌雄を決する時が必ず来る。子孫の為に、よく見定めて置きたいのだ」 稲飯とズガは、いつも遠くを見つめている。愚かな一般大衆を決して馬鹿にしていない。逆に哀れんでいるが故に、目先に囚われてはいけないと自分に言い聞かせている。 『真の支配者は、自分を殺して、孤独に耐えなければならない。ズガや稲飯は本当の指導者だ。それに比べて自分は未熟だ』須佐之男はそう思うのだった。 「出雲は、ヤマタのオロチが高句麗の名の下、統治している。その支配者がわしだ。以前お前に言ったが、いずれお前とわしとで雌雄を決する日が来ると思っていたが、お前がわしの弟であると分かった以上、戦うわけにはいかない。また他の兄たちも腹は違っていても兄弟であることは事実だ。しかし、彼らの性根は腐っておるから、悲しいことだが、いずれ成敗せねばならないだろう。それは卑怯に思われるかもしれないが、お前にやってもらいたい。いくら性根が腐っておっても、長い生活でわしには情が移っておるから出来ぬ」 哀しそうな目をして話すズガの気持ちが痛いほど須佐之男には理解できた。 「死国の稲飯どのも、この国をまとめあげるのは、この須佐之男の使命だと言っておられました。わたしに任せてください」 「よく言ってくれた。これでわしは何の憂いもなくローマに行くことができる」 「問題は西都原をどうするかでしょうね」とクシが言った。 「西都原と御室は同じ民族の流れだと思います。彼らは農業といって、猟をするのではなく、人間の手でいろいろな植物を採取して食物としているようで、我々の生活様式と全然違う、新しい生活手法の進んだ民族のようです。稲飯どのは彼らをつぶさに見てきており、非常に手ごわい相手だと言っておられました。彼らの生活様式がいずれ、我々の狩猟生活に取って替わるだろうとも言っておられました。だから、わたしはどうしても御室に行ってみたいのです」 須佐之男の話を聞いていたズガは、 「それなら、御室に行くより、西都原に行くべきだ。この島々を統一するなら、また御室を大和(おおやまと)の国の中心にするつもりなら、西都原と決着をつけておかないと出来ないことだ」 『さすが、ズガだ!』と須佐之男は感心した。 「たしかにそうですね。それなら西都原に行ってきます」と言う須佐之男に、 「まあ、1年ぶりに帰ってきたのだから、少し落ち着いてからでいいではないか」とズガに言われて苦笑する須佐之男だったが、想いは西都原を統治する貴巫女という女の支配者で一杯であった。 |