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第二章 一度目の対決 ヤマタのオロチ兄弟の本名は、上からイガ、ガガ、ヤガ、フガ、キガ、アガ、エガ、ズガと言う。 彼らの共通点は酒と女に目がないことだ。 だが、それ以外の点ではまったく違った性格と特徴を持っていた。 イガは情緒不安定で、いい時は優しい面が出るが、ひとたび切れると残忍そのものになる。李生成はイガの残忍さを知り抜いて、今までにも新羅や百済との戦でイガを大将にして勝ち抜いてきた。 ガガは、まったく目立たない地味な性格で、何を考えているか李生成ですら分からなかった。しかし、その目の奥に潜む残忍性は返って不気味であった。 ヤガは、ガガと正反対で、賑やかそのもので、黙っていることが苦痛らしく、しょっちゅう喋っていて、思ったことはすぐ口に出す。 フガはお人よしで、酒と女好きを除けば善人だが、酒と女になると人格がなくなってしまう。 キガは変人だ。いつも妄想に取り憑かれていて、李生成の後を継ぐのは自分だと大口を叩くが、いざ行動となるとまったく体が動かない、頭でっかちの男だ。 アガは完全な二重人格者だ。言っていることと、やっていることが支離滅裂だ。完全に精神障害をきたしている。 エガが8人の中で、一番狡猾で身勝手な男で、いつも自分の利ばかりしか考えられない男だ。 ズガが末子だが、やはり末子相続の慣習の一族だけに、何事にも優れているし、リーダーシップを発揮する。一番恐ろしい男だ。 フツはヤマタのオロチに知られているから、フツシが彼らの様子を伺いに行くことになった。 クシがフツシを引き連れて挨拶にいくことになった。 「クシよ。今日は酒か女かと思ったら、若い男ではないか。何者だ、こ奴は?」ズガが大きな声で、いかにも自分が一番偉いと鼓舞しているかの振る舞いで言った。 「はい、ズガ様。ここにいますは我が姫イナダの許嫁で、フツシと申します。本日はみなさまにご挨拶をと参上致しました」淡々と喋るクシに他の兄弟たちが、貪欲な顔立ちで睨んでいた。 彼らにとって許嫁と聞くだけで、欲望が湧いてくるのだ。他人の女を寝取ることが無上の快感であるらしい。 「フツシと申したな。お前はどこの国から参ったのか?」とイガが尋ねたが、フツシは黙って答えなかった。 「はい、イガさま。フツシは伊吹の山の出でございます」とクシが代わりに答えた。 それが余計イガには気に入らなかったらしい。 「伊吹の山の者であれば、トビの術を心得ておるはずだ。ここで披露せよ」とフツシに向かって命令口調で言った。 気の強さではフツシは誰にもひけをとらない。 「トビの術は一人で披露できませぬ。相手が要ります」とフツシは答えた。 「それなら、わしが相手しよう」とイガが長子の威厳を示そうとした。 トビの術とは忍びの術だが、それは遥か後のことで、当時の狩猟時代には、獣相手の素手の闘技であった。 フツシもイガも扶余族だから体格は六尺をゆうに超える。横にいたクシなどは五尺にも満たない。 イガも自信たっぷりにフツシの前に立ちふさがった。 頭も切れるフツシは自分の方から仕掛けようとはしないで、相手の出方を待っていた。 イガがフツシの胸ぐらを掴まえようと右腕を伸ばした、その瞬間フツシの左手が、伸びてきた腕の内側をすっと通ってイガの右肩を掴み、思いきり引き下ろした。 フツシの強力な腕力でイガは前にのめった。 そして、その後は何が起こったか誰も分からない程の一瞬でイガは口から泡をふいて気を失っていた。 他のオロチたちはフツシに、飛びかかろうとしたが、ズガが一喝した。 「手を出すな!」と言って、フツシに向かって笑った。 「フツシとやら。いつかお前とは雌雄を決する時が来そうだな」 フツシも思った。 『このズガがヤマタのオロチの頭だな・・・』 |