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第二十章 女性の美しさ 宇受売は須佐之男の虜になり、西都原への3日の旅の間、片時もそばから離れず須佐之男に尽した。 当時の女性観は近代日本のそれとはまったく違ったもので、純潔意識はまったく持っておらず、ほとんど男女平等の意識が強かった。 特に狩猟型社会はリーダーはいるが、平等の原則が強く、男であっても弱い者は強い女の命令を聞かなければならない社会であり、それが縄文時代の大きな特徴だった。 当然、腕力における男の優位性は、その要因のひとつであったが、耐久力においては、女の方がはるかに優れており、いわゆる健康で、病気に強い女は、魅力のある女であった。 砂漠で放浪生活をする民族は今でも体の頑健さが女性美の大きな要素になっているから、痩せ型より下半身の大きな肥満型女性が美人と見なされている。 宇受売の話しでは、貴巫女は実に頑健な体を持ち、多くの男との間に子を産み、誰が父親なのか、当人すら判らない程、子造り能力に優れていた。女王になった最大の要因もその点にあったらしい。 西都原を中心とする日向の国は、出雲と違って、肉食生活ではなく、農作物を主食とする弥生型社会の原点になったところで、男性と女性の特徴を活かした分業制が徐々に採り入れられた社会であった。狩猟型縄文文化の名残はまだ大きかったから貴巫女のような女性が女王として君臨していたが、社会の価値観は確実に変化し始めた時代だった。 宇受売のような女が出現したのも、時代の大きな変化の節目の時期だったからである。 須佐之男も宇受売の魅力の虜になっていたが、貴巫女に対する期待もあった。 『こんな魅力のある女を従わせている女王だから、さぞかし素晴らしい女であろう』と内心思っていた。 3日の旅は、あっという間に終わるほど、須佐之男率いる三百騎の部隊にとっては名残惜しいものだった。 西都原に到着した一行が先ず驚いたのは、出雲と生活スタイルがまったく違っていて、広々とした台地に居を構えるのではなく、山腹にみんな住んでいた。 『そう言えば、稲飯どのの死国の生活スタイルも、このようなものだった』と須佐之男は思い出した。 貴巫女が住む館に到着した一行がまたまた驚いたのは、この1ヶ月間、生活を共にした女たちが、この西都原ではみんな巫女だったことだ。巫女は神に仕える聖女だ。 宇受売も巫女のひとりだったから、須佐之男の自分に対する対応を心配していたのだった。 館に入った須佐之男は、貴巫女がいる処へ通された。 一段上がったところに巫女に囲まれながらも一段と輝く女性が座って須佐之男が入ってくるのを待っていた。 須佐之男を導いて来た宇受売が、そっと耳うちした。 「あの方が貴巫女さまです」 須佐之男は我が目を疑った。 「あんな手弱い美しい女性が大王・貴巫女なのか」と宇受売に囁いた。 「はい、あの方こそ女王の中の大女王です」と言った宇受売の顔を眺めながら、須佐之男は思った。 宇受売が言っていた貴巫女のイメージとはまったく正反対の女性だった。 『これは、大変な国にやって来た。まさに女の国ではないか。よほど気をつけないと、国の統一処ではない』 |