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第二十一章 貴巫女の秘密 さすがの須佐之男も、容姿端麗な貴巫女の雰囲気にただただ圧倒されるだけであった。 『本当に、貴巫女は女王であるのか?』と疑心暗鬼になって、つい隣に控えている宇受売の顔を見たが、宇受売はじっと下を見ていた。 「須佐之男どのですか、よく来てくれました。あなたは、わたしの弟です。さすが姉弟であるだけに良く似ています」と微笑んだ。 突然何を言いだすのかと須佐之男は、度肝を抜かれた。 「あなたの母は日霊女(ヒルメ)と言う名前の方だったでしょう。日霊女はわたしの母でもある伊謝那美尊の本名なのです。あなたの父は高句麗の大王・李生成ですが、わたしの父はあなたの育ての親の布都(フツ)です。わたしと、弟の月読を産んだ後、母の日霊女は扶余一族の首領である李生成の寵愛を受けてアメ・クニの双子を産み、更にあなたを産んだときに死んでしまいました。フツは実は李生成の弟であり、同じ扶余一族が支配していた漢城を陥落させるためにやって来たときに漢城にいた母の日霊女と夫婦になり、わたしと月読のふたりの子を産んだ後、子供たちを漢城に残して、母の日霊女だけを連れてピョンヤンに帰っていったのです。 ピョンヤンも漢城も、扶余一族の朱蒙が南下して征服した馬漢という国で、血は同じ扶余一族です。 不憫に思った漢城の祭司の伊謝那岐尊が育ての親として、我々姉弟を連れて、当時から深い関係にあった、この日向に移って来たのです。そして、高句麗の大王となった李生成から、あなたのことを聞いたのです」 ますます驚く須佐乃男に貴巫女は尋ねた。 「わたしの父のフツは失意の中で、出雲で亡くなったそうですね。気の毒に」貴巫女は瞳を潤ませていた。 「父のフツは、あなた方姉弟がこの西都原にいることを知っていたのでしょうか?」 須佐乃男の質問に貴巫女は首を横に振って答えた。 「母の日霊女を連れてピョンヤンに帰ったときから、わたしたちのことは忘れてしまっていたでしょう。あなたの父である李生成は、わたしの父フツの冷酷さをなじり、その報いとして母を寝取ったのです。母はアメとクニの双子を産み、そしてあなたを産んだあげくに死んでしまったのです。わたしたち姉弟を捨てた両親を恨んで来ましたが、二人とも非業の死を遂げたことを聞いて、恨みも消えてしまいました」 須佐乃男は貴巫女の話を聞いて人の世の不思議さを感じつつも、何が正義なのかも分からないのがまたこの世であると思った。 「兄の月読は、今どこにいるのですか?」 須佐乃男に訊かれた貴巫女は急に顔を曇らせた。 「わたしと、育ての親である伊謝那岐とが、男と女の関係になったと誤解して西都原を出奔してしまって、今は勢州・渡会の神路山から流れ出る御裳濯川を開いて住んでいるとのことです」 高句麗の李生成・フツ兄弟、アメとクニの双子のひとりであるズガという出雲にいる兄、そして日向の西都原にいる貴巫女と御裳濯川の月読の姉と兄。 須佐乃男の血の繋がりは、まさにこの島国の統治者になるための因果だと思えてならない。またそう思わないとやり切れない気分になるのだった。 |