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第二十五章 須佐之男号泣 横田のクシの館に帰った須佐之男は一安心していた。 イナダ媛も無事に帰って来た彼の姿を見て安堵の様子を見せ、須佐之男の胸に飛び込んでいった。 「ズガ様の容態は如何でしたか?」と聞く媛に須佐之男は、ズガが毒を盛られていたことを伝えた。 「まあ、何ということを。自分たちの弟を毒殺しようとするなんて!」と驚いていたが、男の世界では日常茶飯事のことだと須佐之男は思った。しかし、女のイナダ媛に理解させるのは所詮無理な話だとも思った。 「鉛毒の特効薬を、ズガ様に渡しておいたから、もう大丈夫だ」と言って、正直、須佐之男もそう思っていた。 翌朝、クシが真っ青な顔をして須佐之男の部屋に飛び込んできた時、須佐之男は嫌な予感がした。 『ズガ様に何かあったのだな!』と呟いたのを聞いたクシが、言葉も出せないほどうろたえていたのを見て、須佐之男は腹を括った。 クシはどもりながら、「も、もんの前にズガさまの生首が・・・」 「なに!まさか!」と言いながら、須佐之男は玄関へ走って行った。 門の前では、クシの館の連中ががやがや騒いでいたが、彼らをかき分け、囲みの中に入ると、悲しそうな顔をしたズガの生首が土の上に転がっていた。 須佐之男はまだ血がしたたり落ちているズガの生首を胸に抱いて号泣した。 そして鬼のような顔をして、 「おのれ、オロチの奴らめ。この悪行悔やんでも晴らせぬほどの地獄を味わせてやる」と叫んで、その場を立ち去って行った。 自分でも気がつかぬ内に御室山の「イナダの仇杉」に来ていた須佐之男は、手で土を堀り、ズガの生首を手厚く葬ってやろうとした。 「肉体の死など、誰でもいつかはやって来る。この生首も、もはや我兄クニの魂は抜けているただの肉片だ。だがせめて元の土には戻してやろう」と言って土の中に埋めた。 その時、かすかな人の声のような囁きが聞こえた。 「フツシよ。我が弟のフツシよ。今朝、奴ら七人の兄たちが、わしの寝床にやってきて、お前とわしとが兄弟であることを知ったとわめきおって、『我らは八岐(ヤマタ)の大蛇(オロチ)ではない。七岐(サラタ)の大蛇(オロチ)だ』と言って、わしの首を馘ね、わしの胴体を簸川に捨ておった。だが首を馘ねられた瞬間、わしの想いはお前の体に移ったことを知って、奴らに対する恨みは消えてしまった。今やお前とわしとはまさに一心同体になった」 胸で囁いていることに気づいた須佐之男は、やっと気を取り戻して、生首を埋めて盛った土に「国(クニ)の塚」と手で書いた。 後にそこに「イナダの仇杉」の大木を「生命の木」として、また「オロチの蒲焼き杉」の大木を「知恵の木」として、伐採して出雲大社が建立されたのである。 |